第15話 堕ちた冒険者モードレット

 Aランクの昇進試験を失敗した俺達は宿屋で陰鬱な空気の中、会議をしていた。いや、会議ではないな、これはただの失敗の擦り付け合いに過ぎない。ザインが不機嫌そうに酒を煽り、ルフェイはそれを見てため息ついた後に俺を睨みつけるように言った。



「それで……この失態はどう補うつもりかしらモードレット」

「追放に関しては貴様も同意していただろう、ルフェイ」

「あのねえ、私の提案ではダンジョンの中で置き去りにしようって言ったでしょう。そうすればセインに退職金なんて払わなくてもよかったんじゃないかしら?」

「それに関しては話し合い中だっただろう、今回の件に関してはこいつが悪い。勝手に追放の事をしゃべったのだからな」

「まったく、余計な事をしてくれたわよね、ザイン」

「うるせえな!! いつ追放しようが変わらねえだろうが!!」



 ルフェイの言葉にザインがどなり散らすがヘイズはどこ吹く風とばかりに意に返さない。彼女は我がパーティーの魔術師で、自分から俺とセインがパーティーを組んでいたパーティーに志願をした女だ。全ての成績が平均点で、そのうちついて来れなくなるだろうと思ったが、すさまじい成長を遂げてうちのパーティーの要になっている。ちなみに、彼女のユニークスキルも強力なのだが、あまり、他人にみせたがらないためその力を知っているのは一部である。

 それにしても、どこかで会ったことがあると思うのだが、思い出せない。それにあれは子供のころの話だ。気のせいだろう。



「全然違うでしょう。ダンジョンで死んだ場合はあいつの分のアイテムとかは私たちの物になるし、退職金だって払わないはずよ。それに……」



 彼女は一言区切ってから不気味に笑みを浮かべていった。



「彼が死んだ場合は借りていたスキルってどうなっていたのかしらね?」



 その言葉の意味には俺とザインは押し黙る。ようは殺しておけばあいつからスキルを借りパクできたんじゃないかという事だ。実際死んだ後にどうなるかはわからない。



「まあ過ぎたことはいい、これからあいつの泊っている宿屋に行きスキルを返してもらうぞ」

「あらあら、セインが素直に従うかしらね」

「さあな、だが、従わなければ力で従えるまでだ」

「そうだ、あいつが俺達を騙していたんだ。ぶっ殺してやる。あいつがこうなるってもっと早くいっていれば俺達は死にそうにならずにすんだんだ」



 俺の言葉にザインが後に続く。それを俺は冷めた目で見ていた。こいつは一度セインにボコボコにされているのだ。その時にスキルを返したことによっていつもの調子が出なかったことを俺に報告していればこんなことにはならなかったのに……と思いはある。だが、まだ、こいつには利用価値がある。セインが多少強くなったとはいえ三人で攻めれば勝てない相手ではない。そう思っていた俺だったが、ルフェイは興味なさそうに言った。



「ふーん、行ってらっしゃい。悪いけど、私は抜けるわ」

「なん……だと……」

「おい、待てよ、ルフェイ!!」

「モードレット冷静さをかいているわね、ギルド内やダンジョンでならともかく、街で襲ったのがばれたら下手したら冒険者の資格をはく奪されるわよ。まあ。あなたがどうにもならなくなったら戻ってきてあげるわ」



 予想外の言葉に俺は絶句する。そしてそのまま彼女は部屋から出て行こうとする。ザインが連れ戻そうとするが、俺はそれを制止した。無理に従わせても意味はないだろう。それに俺が力を取り戻せばどうせ戻ってくるだろう。



「あの女は放っておけ、それよりもあいつの元に行くぞ」

「おう、ぼこぼこにしてやる」



 そうして俺たちは向かうのであった。あいつが利用している宿屋へと向かうのであった。


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