第13話 赤き看板娘ベル
迫りくる槍を俺は剣で軽くいなす。それと同時に接近を試みるが柄を振り回され一歩下がる。それと同時に相手もまた一歩下がったため再び槍の間合いになる。大分様になったようだ。そろそろ休憩するかという合図として俺が剣をしまうと相手もそれに習った。
槍を構えていたのはガレスちゃんだ。スキルを得た彼女と宿屋の中庭で模擬戦をしていたのだ。
「だいぶ使いこなせるようになったな、ガレスちゃん」
「ありがとうございます!! それも、セインさんとエレインさんのおかげですよ」
「それは違うぞ、俺はただスキルを売っただけだ。頑張ってものにしているのはガレスちゃんの努力だよ」
「えへへ、何かそう言われると恥ずかしいですね」
俺の言葉にガレスちゃんは顔を赤くして頬をかいた。実際ガレスちゃんは俺から買った初級槍術をどんどんものにしていった。そのかいあってか、臨時パーティーに誘われてダンジョンにもぐったり依頼をこなしているようだ。まだ、正式なパーティーメンバーは組んでいないけど、ちゃんとしたパーティーに誘われるのも時間の問題だろう。
彼女がスキルを買ったという事をズルというやつもいるかもしれない。だけど、買ったスキルをものにしたのは彼女の努力の成果だということを知っている。毎日朝早く起きて槍を振っているし、エレインさんに家事のコツを教える代わりに体の動き方や鍛え方を教わってそれを実践しているのだ。
「なんか負けてらないなってなるよな。俺もまたダンジョンもぐろうかな……」
「セインさん、ダンジョンに行くんですか? よかったら私もいってもいいでしょうか!?」
俺の言葉にぐいっと体を乗り出してきたものだから、彼女の豊かな胸が上下に軽く揺れ、思わず見てしまう。っていうか、ガレスちゃんにスキルを売ってから物理的な距離が近くなった気がするんだが……懐かれたのだろうか? まあ、可愛い女に慕われるのは悪い気はしないな。俺は思わずにやりとしてしまう。
「そうだな、もうちょっと戦えるようになったら一緒にダンジョン行ってみるか。その前に、俺の方もちょっとやらなきゃいけないことがあるしな」
「はい!! ぜったいですからね、約束ですよ。おまじないでもしましょう」
そう言うとガレスちゃんは俺の小指と自分の小指を絡めて「指キリげんまん嘘ついたら、ゾンビの肉をたべさせるー♪」とうたっている。ゾンビ肉とか絶対たべたくないなぁと思いつつ、女の子の指ってなんかやわらかいなぁとにやついてしまった。
「おーい、ダンジョンに行くのかい? ならば私もつれていってくれないかな?」
「どんだけ耳がいいんですか……」
「頼むよ……慣れない事ばかりでストレスがね……」
窓掃除をしていたらしき、エレインさんが二階の窓から顔を出して大声で割り込んできた。エレインさんも色々頑張っているんだけど中々上達しないようである。まあ、たまには気分転換に一緒に出掛けるのもいいかもしれない。これがデートとかではなく、ダンジョンというのがいかにも俺達冒険者らしい。でも、レベルが違いすぎるんだよなぁ……この前ガレスちゃんと組んで二対一で模擬戦をやったのだが、剣をあわせることすらできずに瞬殺されたのを思い出す。おかしいだろ、剣を構えると同時に俺らの武器が吹っ飛ばされてるんだぞ。
「エレインさん、掃除は終わったの? ここのすみに埃があるわよー」
「ひぃぃぃ、今すぐやりますーー!!」
情けない声を上げて窓から消えていった。俺とガレスちゃんは顔をあわせて苦笑する。そして代わりとばかりに綺麗な赤髪の少女がひょこっと顔を出した。幼馴染のベルである。
「セイン、ちょうど手が空いたからいいわよ。例の話をしましょうか?」
「ああ、俺も準備ができてるぜ。じゃあ、頑張ってね、ガレスちゃん」
「はい、セインさんも頑張ってくださいね」
天使のような笑顔を浮かべるガレスちゃんに手を振って俺はベルとこれからの事について話し合いに行くのであった。ああ、無茶苦茶緊張するな。
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