第8話 白い手のガレスちゃん
今日もガシャンという皿が割れる音と共に情けない悲鳴がキッチンから響く。俺は嫌な予感がして、向かうと真っ青な顔をしたエレインさんが割れた皿を目の前に呆然と立っていた。
「まずい……どうしよう……また、ベルに怒られる……」
「大丈夫ですか? エレインさん」
「ああ、セインか……あんまり大丈夫じゃないな……実は今週で三枚目なんだよ……」
「うわぁ……」
エレインさんは涙目で見事に割れた皿を指さす。Sランクの冒険者であるエレインさんは、ずっと冒険者をやっていたためか、家事スキルが皆無で色々とやらかしてはベルに叱られているのだ。といってもベルも理不尽に怒ってはいないし、エレインさんが一生懸命頑張っているのはわかっているので険悪にはなっていない。でも、ちょっと割りすぎだよな。皿も別に安くないし……家事スキルでもあればいいのだが、俺のスキルにあるのは基本的に、戦闘スキルばかりである。家事系はせいぜ料理好きの冒険者から購入した『魚切』などである。
「ちょっといいですか、最近買ったスキルがあるんですよ。銅貨一枚で直してみせましょう」
「お、いいね、じゃあ、お願いしようかな。それで、何を買ったんだい?」
俺は彼女の質問には答えずに、目の前で実践して見せることにする。割れている皿を拾ってくっつけて俺は一言スキル名を言う。
「『
「おお!! すごい、これなら割っても怒られないで済むね!!」
「いや、割らないようにしてくださいよ……」
すると皿が光りわれていた部分がつながっていく。これが引退する冒険者から購入した新スキルである。本来は戦闘中に壊れた武器や道具を直すスキルであり、パーティーに一人覚えている奴がいると便利なコモンスキルである。銀貨4枚はでかかったが結構よい買い物だったのではないだろうか。
「よっしゃ、元通りに……なってませんね……?」
「うーん、これじゃあ、まずいね……いや、芸術的な皿って言えばなんとか……」
「自分修理しといてあれですが、それ、ベルに言えます?」
「う……素直に謝ることにするよ……あー、甘いものでも渡せば少しは優しくなるかな……」
「ですね……俺も今回のお金はいいです……」
光が収まるとお皿は確かにくっついていたが、馴れないことをやったためか、微妙にずれてしまっている。これから叱られることを考えたのかエレインさんがため息をつく。まあ、俺も余計な事をして期待させてしまったし、一緒に謝るかと思っているとキッチンに人が入ってきた。やっべえ、ベルか!? 俺がびくっとしているが、なぜかエレインさんはすました顔のままだ。
「ふふ、この足跡と気配はベルじゃないよ」
「お疲れ様です。あ、エレインさんに、セイン君じゃないですか。こんなところで何をやっているんですか?」
「あ、ガレスちゃん。そっか、今日は冒険者じゃなくてこっちなんだな」
「はい、今日は腕によりをかけてご飯を作るんで楽しみにしててくださいね」
そう言って真っ白く美しい手をぐっと握りながら満面の笑みで俺に返事をするのは、小柄の少女はバイトのガレスちゃんだ。金髪のカールした髪の毛と、大きな緑色の瞳と笑顔が似合う可愛らしい女の子である。今もウェイトレスのような恰好をしているが、とても似合っており、この街でお嫁さんにしたいランキングナンバー1である。(俺調べ)
彼女は最近冒険者になったのだが、それだけでは食べていけない事もあり、ここで住み込みのバイトをしているのだ。ちなみに彼女の料理は無茶苦茶美味しい。
「それでお二人はどうしたんです……あ……またやっちゃったんですね」
俺の手にある皿と気まずそうに目を逸らすエレインさんをみて何が起きたか想像ついたらしく彼女は小さくため息をついた後にエレインさんに笑顔で言った。
「私も一緒に謝りますから、元気をだしてください。エレインさんが一生懸命頑張っているのはしってますから」
「ガレスちゃん、ありがとう。君は救世主だ」
天使のような言葉にエレインさんがガレスちゃんの綺麗な手を取ってブンブンと振る。するとガレスちゃんの大きな胸が揺れて目の毒である。無茶苦茶いい景色だな。そうしていつも通りの一日が始まる。
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