第7話 モードレットの没落とセインの栄光

「なぜだ、なぜ勝てない!?」

「くそ、セインのやつの言ってた通り。クソが!! モードレット助け……うげ……」



 昇進がかかったダンジョン攻略クエストで俺達は思わぬ苦戦を強いられていた。いつもの守備力を発揮できずにザインが、オーガの一撃によって倒れるのが見えたがこちらもそれどころではない。俺もいつもなら見切れたはずの攻撃が避けれない上に、攻撃も通らない。一体なぜだ? ザインが何やら気になることを言っていたが気絶をしてしまったようで問いただすこともできない。



「おう、あんたら本当にBランクのレコードホルダー『白く輝く聖剣』なのか? 弱すぎるぞ」

「なんだと!?」



 セインの代わりに入った冒険者の言葉に俺は思わず反論をする。だが、彼の言ったことは事実である。これまでの実力が信じられないほど俺達は弱体化してしまっている。いつもより、威力の低い斬撃しか打てない俺に、踏ん張れないタンク、そして、集中力にかける魔術師だ。なぜだ、なぜこうなった?



「あんたらスキルがおかしいんじゃないか? モードレットは剣の振りはしっかりしているのに踏ん張る脚力がたりねえ、ザインはタンクなのに盾を使いこなせてねえし、魔術師のルフェイは集中力にかけて失敗ばっかりだ。そこら辺を補うスキルは冒険している間に覚えるもんだし、そもそも基本がなってねえ!! 上級スキルはつかえるのに基礎がなってないって一体どうなってんだよ?」


 その冒険者のセリフでハッとする。俺は……いや、俺達はスキルの構成をほとんどセインに任せていた。そして足りないスキルをセインから借りていたのだ。そのおかげで俺達は本来冒険をしていくうえで身に着けるはずの基礎スキルを習得する時間を短縮してランクを駆けあがる事ができた。基礎スキルの上位スキルを覚えたのであいつを追放したのだが、スキルは組み合わることによってその効果を何倍にもするのだ。そういえば、最初にスキルを借りていた時にそんなことを言っていた気がする。



「セインのやつはめやがったな……」



 確かにあいつのアドバイスを無視したのはこっちが悪い。だが、追放されるときにそういうことはいうのがマナーというものだ。そうと知っていればあいつから必要なスキルを全部買っていたと言うのに……ダンジョンから戻ったらあいつの使っている宿屋に抗議をしに行こう。セインはあの宿屋の女と仲が良い。何か文句を言ったらあの女を傷つけるぞと言えば従うだろう。



「オーガの援軍だぁぁぁ!!」



 意識を取り戻したザインの情けない悲鳴がやかましい。どうにか立て直そうとおもうが、雇った冒険者のやつはいつの間にか逃げたようだ。ふざけやがって。ヘイズに至っては涙目で命乞いをしていやがる。



「俺は……こんなところで死ぬわけにはいかないんだよ……」



 俺は傷で痛む体に鞭をうって剣を構えるのであった。







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「今日からバイトに入るエレインさんよ、セインわかってると思うけどセクハラとかしたら許さないからね」

「セイン君よろしく、ここでは君の方が先輩だね。よろしくお願いします、セイン先輩っていったほうがいいかな?」

「え……は? どうなってんの?」



 朝起きて、ベルに何か手伝う事がないか聞こうとしたらこの状況である。俺はよくわからない状況に思わず聞き返す。だってエレインさんってSランク冒険者だぞ。何でここでバイトするんだよ。ユニークスキルが無いとはいえ、戦力は一級品なはずだ。お嫁さんになりたいといってたし、あの美貌である。男も引く手数多ではないだろうか?



「何でここでバイトを……」

「それはその……私はずっと剣ばかり握っていたから、家事が一切できないんだ……だから、ちょうど求人していたし、ここで働くついでに色々教わろうかと……」

「ああ……なるほど……」



 まあ、冒険者をやっていたら確かにそういうスキルは身につかないかもしれないな。お嫁さんになるための花嫁修業ってところか……俺の監視とかじゃないよな……



「それに……私のパーティーは全員女だったからね……その……依頼以外で男性とあまりちゃんと接したことがないから君で慣れておこうと思って……」

「あー、俺は練習台ですか……」

「ふふ、君は私の恩人だからね、もしよかったら私の事を君がもらってくれてもいいんだぜ。なんてね」

「え、それって……」



 そういうと彼女はからかうように笑った。俺はそのしぐさに一瞬ドキッとしてしまう。



「ちょっと、エレインさん!! 鍋の火ちゃんと止めました? なんか、あふれてますけど」

「え? ああ、忘れてた!! すぐやります!!」



 そういうと彼女は比喩ではなく一瞬で俺の目の前から姿を消した。それと同時になにやらキッチンが騒がしくなる。よくわからないことになったけれど楽しそうで何よりである。

 そんな彼女を見て思う。冒険者として生きていくのもいいけれど、こうやってスキルの取引をするのもいいのではないだろうか? 今回の様に不要だと思っている人からスキルを買って、必要な人に売る。金を稼ぐのは何も冒険者ではなくてもいいのだ。そんな事を思うのであった。


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