第6話 商談を終えて

 結局あの後の依頼はあっさりと終わった。エレインさんが仮面をかぶった金髪の人を連れてきて、俺がスキルを使って売買をしたのだ。『聖剣の担い手』の金額が金貨5000枚だったのにはおどろいたが、それを当たり前のように支払う仮面の男? にも驚いた。仮面の男からもらった指輪を手でいじりながら思う。

 拍子抜けするくらいあっさり終わった依頼を終えた翌日、俺が宿屋でベルの淹れたコーヒーを飲んでいると、彼女が世間話を振ってきた。



「そういえば、ついにアーサー様が選定の聖剣カリバーンを抜いたらしいわね。これで王様は確定でしょうね」

「ぶふぁ!! え……あの誰も抜けなかった聖剣を……?」

「汚いわね、コーヒーを吐かないでよ、火傷していない、大丈夫?」

「ああ、ありがとう……」



 思わずコーヒーを噴き出した俺に注意をしながらも、ハンカチを渡してくれるベルにお礼をいいながら考える。売られた『聖剣の担い手』というスキルに、あの大金をポンと出す仮面の男……そこから導き出される答えは……深く考えるのやめよう……いや、普通に貴族らへんかなとは思ったけどさ……王族はやべえって……俺が現実逃避をすべくテーブルにあるコーヒーを必死に拭いていると声をかけられた。



「やあ、昨日は助かったよ」

「ひぇっ」

「そう、怖がられるととさすがの私も傷つくんだけどな」



 そう言って唇を尖らすのはエレインさんだった。まさか、俺を口封じにきたわけじゃないよな……




 少し話があると言われ、彼女と再び個室へで会話をすることになった。いやいや、継承権問題とか絶対やばいやつじゃん。仮面の男も貴族かなんかだとは思っていたが第一王子かよ。あれか、まさか口封じに殺されるんだろうか。俺が警戒していると彼女が口を開く。






「その顔だと昨日の仮面の人の正体に関しては察しがついているようだね」

「いやー、何の事でしょうかね? 俺まったくわからないです」

「フフ、君は演技が下手だな。昨日の指輪には、もちろん口止め料も含まれている。何のことかわからないっていうならわからないままにしているほうが利口だよ」



 そう言って彼女は楽しそうに笑う。あれ、この感じ敵意はないのだろうか?



「君には感謝しているんだよ、私をスキルの呪いから解放してくれたことにね」

「呪い……ですか……?」



 俺は彼女が柔らかい笑みを浮かべながら言っている意味がわからず思わず聞き返す。彼女は何をいっているのだろう。強力だが使うのに条件がある聖剣を自由に使える『聖剣の担い手』は強力なユニークスキルだ。冒険者なら喉から手が出るほど欲しい強力なスキルだというのに……



「不思議そうな顔をしているね、意外かと思うかもしれないが、私は冒険者になりたかったわけじゃないんだよ。ただ、このスキルを持っているからにはみんながみんな冒険者を目指せと言ってきてね、家族の期待、他人の善意によるサポート、私とっては全てが重荷だった。だけど、幸か不幸か私には戦闘の才能があったみたいでね、Sランク冒険者になってしまったんだよ」



 彼女は簡単そうに言うが実際はSランク冒険者というのが、そんなに簡単ことではないのは冒険者を経験している俺にはわかる。冒険者は一獲千金を目指すものがなる職業だ。彼女の家族が強力なユニークスキルを持っている彼女に期待するのもわかるし、周りの冒険者も用来有望な彼女に恩を売ろうと思ったり、善意から力を貸そうとするだろう。そして、彼女は冒険者になったのだ。本人は望んでいないと言うのに……



「もったいないないと思うだろ。だけど……楽しい事もあったし、悲しい事もあった。もちろん冒険者になったことは無駄だとは思っていない。だけど、私は違う人生を歩みたいと思ったんだ。だから今回の依頼を受けたのさ」

「もったいないとは思いませんよ」



 俺が彼女の言葉を否定すると不思議そうに目を見開いて、興味深そうに俺を見つめてきた。



「ふーん、どうしてかな? 自分で言うのもあれだけど、Sランク冒険者だからね、地位も名誉も思うがままなんだよ」

「俺のスキルが技能取引<スキルトレーダー>だからでしょうね……俺にとってスキルは他の人に比べて少し軽いものになっているのかもしれません。だからスキルに振り回される人生はもったいないと思うんです。そりゃあ、スキルを有効活用して、自分の好きなように生きるのはいいと思います。でも、このスキルだからって自分がやりたくないことをするのは何か違うと思うんですよね。人生は一回しかないですしね。だから、俺はあなたの選択をもったいないなんて思わない。むしろ、俺の想像できないほど悩んで、俺の想像できないほどの地位や名誉を捨ててまでやりたいことがあるなんてむしろ尊敬します」

「……」



 俺の言葉に彼女は沈黙してしまった。やべえ、調子に乗って偉そうなことをいってしまっただろうか。俺は焦りながらどう謝ろうかと思っていると彼女はいきなり笑い出した。



「はは、尊敬するか……そんな風に言われたのは初めてだよ、相談をした人はみんなもったいないって言うばかりだったからね。君は変わってるな。それとありがとう。おかげで迷いが晴れた。まあ、聖剣を使えなくなっただけで、他のスキルは使えるからね、冒険者として問題ないんだけど、やはり……夢のためにがんばるとするよ」



 そう言って笑った彼女の笑顔はこれまで見た中でもっとも晴れやかだった。きっと悩みぬいた結果の結論なのだろう、彼女が冒険者として培ったコモンスキルや知識、経験はきっと役に立つだろう。



「そういえばエレインさんの夢ってなんなんです?」

「笑わないで聞いてくれるかい?」

「ええ、もちろんです」



 俺の言葉に彼女は恥ずかしそうに、手をもじもじとした後に顔を真赤にしてこう言った。


「前にあった時にも言ったけどね、普通に恋をして、好きな人と結ばれて、素敵なお嫁さんになりたいんだよ」


 そう言ってはにかみながら言う彼女はとても可愛らしかった。

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