第12話 イイコトの続き
翌朝、教室へ着くと、僕の席に見慣れない女子が座っていた。
「あ、彼が例の山田?」
「うん、そうよ」
ん? だれだ? 僕の事を知っているのか。
「あ、おはつ! 山田! 私は
昨日休んでいたクラスメイトか……しかし馴れ馴れしい、羨ましい限りのコミュ力だな。
「山田です。はじめまして内田さん」
「あ、ウッチーでいいよ。皆んなそう呼ぶし、同級生なんでしょ? 変に気を使わないでね」
ふむ、変に気を使わないか。
僕にもその思考ができれば色々違ったのだろうけどな。
「おはよう、山田くん」
「おはよう、
さっきまで、とても落ち着かない気分で、胸がザワザワしていたけど、倉科さんと挨拶を交わしただけで胸のザワザワが収まった。
日に日に彼女なしで生きていけない身体になっていくようで、少し不安だ。
「ウッチー退いてあげてよ」
「あぁ、悪りぃ悪りぃ、邪魔だったよな」
「いや、別に、カバンさえ置かせてもらえれば大丈夫だよ」
「山田はなんか紳士な感じがするな」
感じではなく正真正銘の紳士だ。
ウッチーは僕の顔をじぃ〜っと見つめてきた。
「ふ〜ん、やっぱ
な……なに?
イケメン……倉科さんは僕の事をそんなふうに見てくれていたのか。
「ちょっ、ちょっとウッチー、ダメだって」
顔を赤くして取り乱す、倉科さん。
そ、そうか、これはあれか。
『ねえ結愛、転校生って、どんなやつ?』
『なんか、みんなイケメンっていってたよ』
的な受けごたえをして、自分が思っているわけでもないのに誤解されるのが恥ずかしいってパターンのやつだな。
「何照れてんのよ〜」
そりゃ、誤解されてたら照れもするだろう。
「ねえ、山田」
僕の肩にポンと手を置き語りかけるウッチー。
「な、なに?」
この子……どんどん馴れ馴れしくなってくるな。まだ接触してほんの数分だぞ?
……なんて羨ましいスキルだ。
「山田って彼女いるの?」
このことは昨日も散々聞かれた。
だけど、昨日は不特定多数の質問だったから答えようがなかった。
だけど今日はマンツーマンだ。
きっちり答えてやる。
「いないよ、いるわけないじゃん」
「え—————っ! めっちゃいそうなのに!」
居るわけないだろ。ボッチなのに。
「ねえ、
なんでそこで倉科さんに振る!
「え、そ……そうだね」
ちがうよ! いないからね!
「よかったね、
「ちょ、ちょっとウッチー」
……なんだ今のやりとりは。なんでよかったんだ?『え、山田彼女いるの? ちょっと生意気じゃね?』なんて思われていたりしないよな!?
「じゃぁさ、山田はどんな子がタイプ?」
「え……どんな子って、そりゃ」
倉科さんがタイプに決まっている!
しかし『僕、倉科さんがタイプなんだ』なんて言って2人にドン引きされても困る。
だが、これは千載一遇のチャンスだ。
この質問をうまく利用すれば、さりげなく倉科さんへの想いがアピールできるはずだ。
降って湧いたこのチャンスをみすみす逃すような鬼龍院 匠ではないぞ!
「もしかして……
「え」
な、な、な、な、なにぃ————————っ!
これはいきなり、難易度マックスだ。
1番楽なのはウッチーの誘いにのり『う、うんそうなんだ』と答えることだ。
だが、答え方次第では大きな危険性をはらむ。
『バレちゃったか、実は僕、倉科さんのことがタイプなんだ』なんて言って、こいつ調子よくね? キモっとか思われても嫌だし。
『そうなんだ、実は僕、倉科さんの好きなんだ』とか言って、こいつ便乗告白してきたよ……キモっとか思われるのも嫌だし。
——しかし、僕が答えに窮していると。
「やっほー山田くん」
助けられたことになるのか。
それより……僕に会いにきた?
「ちっす、陽万理先輩!」
「やっほーウッチー」
いきなりウッチーが畏まった。2人は知り合いなのか?
「昨日は休んですみませんでした!」
「用事があったんでしょ? いいよ気にしないで」
「あざっす」
部活の先輩後輩か。
「山田くん、昨日、話し出来なかったから会いに来ちゃったよ」
「ど、どうも」
「えっ、山田とお知り合いですか? なんか山田が失礼なことしたんですか?」
「ううん、そんなんじゃないから口挟まないで」
「はっ、はい!」
凄い威圧と凄い気の使い方だ。
部活の上下関係って噂通りおっかないんだな。
「ここじゃ、邪魔が入りそうだから移動しよっ」
そういって倉科さんを見つめる陽万理先輩。そして倉科さんも陽万理先輩から目を逸らさない。
2人の間にも何かあるのか?
「山田くん?」
僕の肩にポンと手を置き、答えを促す陽万理先輩。
……そうだな。
また勝負や空手に誘われても困る。
行ってきっぱり断っておくか。
「いいでしょう、いきましょう」
*
——僕は陽万理先輩と人気のない階段の踊り場まで移動した。
「ねえ山田……」
2人っきりになると、突然先輩はしおらしくなった。
「イイコトの続きなんだけど」
イイコトの続き?
やっぱりまだ試合をしたいというのか?
「山田だったら……いいよ?」
頬を赤らめ、もじもじしながら話す陽万理先輩。
そうか……昨日あんなにもコテンパンにやられたんだ。だから試合に誘うのが恥ずかしいのだな。
だが、やられても尚、立ち向かってくる向上心は嫌いじゃない。
本当は断ろうと思っていたけど、下々の願いを叶えてやるのも上に立つ人間の務めだ。大した手間じゃないし手伝ってやるか。
「いいですよ先輩、また今日の放課後にしますか?」
「いいの! ありがとう!」
とても喜んでくれている。
「でも……学校帰りじゃなくて、今度の土曜日がいいな?」
今度の土曜日か。確か大臣との会談があったが……まあ、リスケさせればいいか。
「いいですよ。土曜日ですね」
「やった! じゃぁ連絡先交換しよ」
連絡先……もしかしてスマホの連絡先か。
「これ私のアイディーだから、登録しといてね」
「あ、うん」
このアプリの開発したのは僕だ。
だが、仕事のやりとりがメインで、それ以外の人間の登録はなかった。
やっとだ。
やっと仕事以外の人間のアイディーゲットだ!
ってことは、これはつまり……僕と陽万理先輩は友達ってことなのか?
「山田くん……」
「はい……」
「うち……友達じゃ、嫌だからね」
が———————————————ん!
僕の予想は即座に否定された。
「山田くん! 楽しみにしてるね」
「え、あ、はい」
本当に空手が好きなんだな。
「デート……待ち合わせ場所またメッセージするね!」
で……デートだと。
僕はこの後、階段の踊り場でしばらくフリーズしていた。
一目惚れの君に告白するため転校までしたボッチの僕が美少女達にグイグイ言い寄られなかなか君に告白できない件 逢坂こひる @minaiosaka
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