word47 「黒いパソコン お隣さんから」⑥
どうしてこうなったんだっけ――?
僕は歩き出すとすぐに思った。途中までこんなことになるとは全く思っていなかったのに、気づけばなんかお隣さんと一緒に彼の家に行くとことになっていた。ほんと、どうしてこうなったんだっけ――。
もし近所の人にこの状況を見られようものなら、面倒なことになるだろう。日中いつも公園付近でたむろしているおばさんお婆ちゃん連中に知られると噂が一瞬で広がる。ねえねえ聞いてあそこのお宅の息子さんがね、と。
それはまあ別に悪いことをしてないからいいとしても、両親に知られたら何故か怒られると思うし、言い訳も作りづらい。
僕の右隣、やや前方を歩くお隣さんは公園を出てからは一言も喋らなかった。あまり手を振らない、不自然と言えば不自然な歩き方で前を向いたまま歩き続けた。
途中、車が来ていない横断道路を、手を高く上げて歩いたところでは唇を嚙みしめることになったが、それ以外は普通だ。
僕はその中で、頭を働かせ続けた。とにかく疑問を脳に向かって投げつける。なぜ急にお隣さんが正体を明かそうと思ったのか、お隣さんが聞いてほしいこととは何か、このまま付いて行っても本当に大丈夫か、そして――。
何でも検索できるパソコンとは、「あれ」のことなのか――。
全ての答えはこのドアの先にあるはず。
辿り着いたお隣さん家の玄関の……このドアの先……。知りたいなら行くしかない。
「さあ、上がって」
家のすぐ近くだけど、1度もその先を見たことが無いドア。くぐるときには武者震いがして、僕はもう半ばどうにでもなれという心持ちだった。
「……お邪魔します」
「うん、こっちこっち。付いてきて」
お隣さんが電気もつけずに暗い廊下を歩いていく。僕は言われるがままついていく。真っ直ぐに廊下を歩くと突き当りを曲がる。
入った部屋ではお隣さんが灯りを点けた。まず目に入ったのは、冷蔵庫。それに、流しとテーブル。どうやらこの部屋はダイニングキッチン。ごく普通の内装をした。日本のどこにでもありそうな場所である。
今朝読んだっぽいテーブルに置かれた新聞、そこに猫が1匹寝ている。茶色と白の猫だ。
「ちょっと待っててね。よいしょ……よいしょっと……」
お隣さんは着ていたスーツの上着を脱いだり、ストーブを点けるといった帰宅時のルーティンを始める。
そして、何かしらのリモコンを持って、また僕のところまで戻ってきた。
「あ、ちょっとどいてくれる」
「はい」
覚悟は決めた……はずだった……。しかし、お隣さんのリモコン操作と謎の音により、何の変哲もない壁が地下に続く階段に変わった時は、目をぐっと閉じてしまった。
折れそうな心をどうにかしようと眉間を強く摘まむ。
「これだけでも、私が宇宙人ということは分かったんじゃないかな……大丈夫?」
「……はい」
「今からここを下りるんだけど、そりゃ怖いよね」
「……まあ、はい」
「君に危害を加えることは決してしないことは約束するよ。じゃあ、行こうか」
その階段からは家の内装がSFチックになった。すごくシンプルでメタリックで、進む道に沿って淡い光の線が、壁と床にある。SFチックとは言っても地球人が開発した宇宙船なんかもこんな感じだったか。テレビとかで見たことがある。
手すりが付いているので、そこに触れてみると、何というか高級な感触がした。しっとりと握りやすくて、手に馴染む。あと、触れている部分も淡く光った。
それほど深くは下りず、一般的な地下1階に向かうくらいの距離を下りると、これまたSFチックな自動ドアが高速で開く。
「さあ、ここだ。ここなら君に私が宇宙人である決定的な証拠を見せてあげられる――」
正に宇宙だとかを対象とする研究室、そんな印象を受ける部屋に辿り着くとお隣さんが言った。
そこでまず目についたのは、こないだ検索した深海魚の姿である。
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