word37 「SNS バズらせ方」④

 その投稿をするのは別にどのアカウントでもいいのだろうか。本名で使っているアカウントと「ポンカン」という名前で使っている趣味用アカウントの2つがある僕は、どっちのアカウントで投稿するか迷った。


 結果、書かれていないならどちらでもいいのだろうという結論に至って、ならば趣味用アカウントのほうに投稿しようと決めた。


 理由は本名のほうで投稿すると、僕がゆるキャラが好きなことがバレてしまうからだ。それは恥ずかしい。


 指定された時間は15分以上余裕があるけれど、すぐに投稿した。毎秒何千個、何万個と増え続けている文や画像の群れへ、僕のスマホからも発信される。


 いつどのようにそれが始まるのか見るためにずっと画面に張り付いていた。でも、すぐには変化が無かった。わずか50にも満たないフォロワー達も、誰1人として反応を見せない。


 ちゃんと投稿できているのか気になり始めて、SNSのアプリ内で「ウザい広告」と検索すると、ちゃんと僕のものもあった。


 そして、やはりあの広告のウザさについて投稿している人がそこそこいることも知る。僕自身、動画を見るときにあれが流れ始めると殺意が沸く……。


 ウザい広告についてネットの民がどういう感想を抱いているのか見ていって15分後、もしかするともう何も起こらないのではないかと思い始めた時であった…………1つのアカウントから拡散されたと通知を受ける。


 知らないアカウントだった。けど、それを皮切りに僕の投稿のバズりはスタートした――。


 2つ3つと、通知が届くようになって、最初に僕の投稿を拡散したアカウントを見ると、10000人もフォロワーがいるアカウントであった。


 ぱっと見では何故そんなにもフォロワーがいるのか分からない。知らないアニメのキャラクターがアイコンのアカウントが火付け役となって、僕の投稿が広く広く拡散されていく――。


 顔も知らない他人のアカウントを渡り歩くたびに、僕のスマホが振動した。ペースはそれほど早くない。1分に1つくらいの通知のペースである。けれど、ペースは時間を増すほどに早くなっていった――。


「おお……すげえ……」


 通知と拡散の数が増えていくのを楽しんでいると、最初の拡散からものの30分ほどで拡散の数が100を超えた。ハートの数はその倍以上。


 まだまだバズったという数字ではないが、それでも自己最高記録を大きく超えているので興奮してしまう――。


 夕飯の時間になったので、僕はそこで一旦SNSのアプリから目を離して、リビングに行く。スマホは持たずに、部屋に置いたまま。敢えて数時間寝かすことにしたのだ。そのほうがよりおいしくなる気がした。


 ゆっくり夕飯を食べて、家族でテレビを見て、風呂に入る。まだ僕しか知らない自分の投稿がバズっているという事実を胸の中で楽しみながら……。


 自分の部屋に戻ってきたときには、スマホの電源を切ってから2時間半が経っていた。期待しながらスマホを開く――。すると、そこにはSNSからの通知で埋め尽くされた画面があって、その光景を見ている最中にもさらにスマホが振動する――。


 夕方に行った投稿の拡散数は7000を超えていた。思っていた以上のペースである。見間違いではないことを確認する為に目を凝らしてしまう。そして数が増えているのは真っ最中のことで、常に画面上部に通知が届いていた。


「ヤバ……なんだこれ」


 消しても消してもどうしようもない通知は毎秒自分の投稿に何か反応があったことを告げている。SNSの通知欄を見ると、色んな人のアカウント名がずらりと並んでいた。


 スクロールすると、中にはアカウント名に「芸人」や「アイドル」といった単語が入っているちょっとした有名人っぽいアカウントもあって、その人の名前は知らないけど、こんな人まで僕の投稿を見ているのかと思った。


 「バズっているツイート速報」というアカウントにも拡散されていて、数々のバズっているツイートの中に僕のアカウントも名を連ねていたりした――。


 王道の動物系、子供系。日常の役立つアイディアを紹介している投稿に、失敗や偶然から生まれた日常の1コマ。めちゃくちゃ旨そうな料理のレシピと画像、そして張り紙やアニメの画像に秀逸なツッコミを入れている投稿などなど…………そんな中に他と劣らない面白さだと思える僕の投稿。なんだか誇らしい気分にもなる。


 ――僕の投稿に対しての感想も見ていって、その内に増えた通知でどんな人が反応しているかをまた見る……。しばらくそうやっていると、僕と同じ高校に通う同学年の生徒からも反応があったという通知を見つけた。


 僕の本名アカウントの方でもフォローしているからすぐに気付いた。1年生の頃に同じクラスだった女子。自撮りのアイコンをタップすると、やはり知っている女子のアカウントで、その子は別に有名人でもないけどなんだか今日1番の驚きがあった。


 世間は広いようで狭いというか……もうここまで辿り着いたんだなと、ちょっと手を止めて考えさせられる。


 けれど、数分後にはさらに何倍もの衝撃を与える出来事があった。


 数々の通知の中から運命的に、僕の目に飛び込んできた通知。見つけた時には反射で自然と手がガッツポーズを作った。


 「折原 裕実」というアカウントからの拡散という通知だ――。


「は!?」


 僕は立ち上がった。茫然として、どんどん来る通知にそのアカウントが流されていくのを見送る。


 別に何かを達成した訳でもなく、最初に目標を設定した訳でもなかった。でも僕は今、この瞬間にゴールテープを切ったような感覚を抱いた……。


 やった。やり遂げってしまったんだと喜びが湧いてくる。僕はきっと勝ったんだ。凄く嬉しい。


 数分間余韻に浸って……折原が何か感想を投稿していないか見に行く。いつもはたまにひっそりと見ているアカウントへ。そうすれば真っ先にそれは見つけられた。


「私もこのキャラクター好きだから物騒なことやらせるのはやめてほしいな」


 文章の末尾に付けられていたのは、目に涙を浮かべる顔文字であった。所謂、ぴえんと呼ばれるやつ。言うまでもなく拡散した僕の投稿に対する感想である。


「は!?」


 再び僕は言った。驚きだけではない、色々な感情からくる「は!?」だ。


 これは状況が変わってしまった。さっきまでのことは吹き飛んで、僕の中でどうするかという議論が始まる……。


 もう十分楽しんだのではないか……結局、黒いパソコンに考えてもらった投稿であるし……やりたければ、またいつでもできる……通知がずっと来ることも考えたによってはうっとうしい……。


 反対派の意見が強かった。わずか数十秒で結論が出るほどに。


 僕は勢いのまま、バズっている投稿を削除した。


 それが、僕のバズりの終わりであった――。

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