word37 「SNS バズらせ方」③
黒いパソコンで検索する時は、Enterキーを押す前にどんな結果が出るのかを予想するのが紳士の嗜みである。いつもはそうしている。
しかし、今日の僕はすぐにEnterキーを押した。早くその先が見たかった。幾通りも答えがあるだろう質問に、黒いパソコンがどう答えるのか……。
『まず、スマホを手に取ってあなたが普段使っている動画サイトのアプリを開きます。今から5分後の17時34分ちょうどに動画の視聴を開始してください。あなたが好きな動画であれば何でもいいです。動画が始まる前に広告が流れますが、そこですぐにスクリーンショットの準備をしてください。広告の再生時間が15秒ちょうどになったらスクリーンショットをします。タイミングは多少ズレても構いません。撮影したスクリーンショットを「奇跡の瞬間取れてワロタ 最近やたら出てくる広告、やっぱみんなうざいんやな」という文と共に17時45分から18時03分までの間に投稿してください。』
結果は時間をかけずに画面いっぱいに表示された。
その文を2回早足で読んで、ざっと内容を把握すると、スマホを手元に持ってきて、またパソコンの前に座る。そして、検索結果を表示したまま、書かれていることを実行する準備を始めた。
答えを教えてくれたとしても、実行するのがめんどくさいのがくるかもと思ったが、さすがは黒いパソコン。この場ですぐにできる順序を僕に差し出した。
まだ一体何が起こるのかは不透明。だけど僕はさらによく結果の内容を把握しながら待って5分後、書かれている通りにスクリーンショットの構えでスマホを持った。
気分で目に入った動画のサムネイルを押す。選んだのは僕が最近ハマっているゆるキャラの動画だ。
始まった広告の動画。僕はそれを見ながら、これから何が起こるか予想するでもなく、ただ15秒の瞬間に狂いなくスクリーンショットを撮ることだけに集中していた。
うるさいおじさんと、うるさいおじさんのキャラクターが叫ぶうるさい広告。始まってすぐにボリュームを下げて、10秒……9秒……とカウントダウン。
そして、狙い澄ましてその瞬間を撃ち抜いた――。
固まったスマホの画面。そこには思いもよらぬ瞬間が記録されていて、僕は思わず吹き出してしまった――。
最近やたら出てくる広告動画がある。黒いパソコンの検索結果にも書いてあったが、ウザいと感じる広告だ。たぶん中国のソーシャルゲームの広告なのだが、おじさんとおじさんのキャラクターがひたすら叫ぶという内容の。
それがとにかくうるさいのだ。不快に聞こえるガラガラとした声に、何故か他の広告よりもでかい音量で、どうでもいい面白くなさそうなゲームのセールスポイントを叫ぶ。広告動画なんてどれもウザいものだけど、その中でも群を抜いてウザい。
そんな広告を咎める勇者の姿が、手元のスマホの画面にある。
それは僕が好きなゆるキャラ、世間的にも人気な猫。右手を大きく上げた姿が、下の関連おすすめ動画にあって、15秒の瞬間に出てきた別のバナー広告とパズルのように繋がった。
別のゲームのバナー広告には銃を握って上に突き上げている手があって、その銃口はアップで表示されたおじさんの首に向いていた。
まるでゆるキャラが笑顔でおじさんを脅しているような構図。迫真的なおじさんの顔と、とろけそうな表情のゆるキャラとのギャップはインパクトがある。
なるほど○○に見える系か……。僕はにやつきながら思う。バズる投稿でよくあるパターンだ。スクリーンショットに限らず、色んなジャンルで撮影した物が、違った形や思いもよらぬ形で写るというのは……。
これを決まった時間に、決まった文と共に投稿すればバズるのか……。
僕は間違えないように注意して、その投稿をSNSに放った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます