番外編 2 「人類 滅亡」③

 弁当の空き箱やお菓子のゴミが散らかるホテルの一室で、私は覚悟を決める。そうは言っても、本当にやるのか自分に聞いてみるくらいで重さはそれほどなかった。


 その日のうちに私は黒いパソコンから指示されたことを実行した。上着に袖を通して外出すると、必要なものを買い求めていった。


 そもそも決行日まで指示されていたのでその日のうちから準備し始めないと間に合わない。黒いパソコンが指示した決行日は明後日だった。


 そしてその明後日という決行日は私にとって非常に都合が良い。人類を滅亡させる前に私はやっておきたいことがあったから。そういう都合まで黒いパソコンは汲んでくれているのだろうか……。


 翌日、私は両親を殺した。父、母、両者ともナイフで首を切りつけた。


 父は酔って寝ている時にそっと近づき、ハンマーで後頭部を殴った後にゆっくり殺した。入念に血を流させた。私が受けた分の痛みを返した。


 母は力づくで勝つことができると思ったから特に小細工はしなかった。どちらとも別に聞かなくてもやれると考えていたけど、一応念のため黒いパソコンにやるべきタイミングは聞いておいた。


 人殺しをいざやってみても悲しみや苦しみみたいな感情は湧いてこなかった。黒いパソコンを手に入れてから私は変わったと思う。実際に健康状態とかも変わったはずだけど、それよりも何でもできる気がする万能感、自信。さらには現実離れした状況に自分自身も人間ではない何かになったような。


 両親を殺した私は血に濡れたまま、冷蔵庫に入っている父用のお酒で1人、祝杯をあげた。初めて飲んだ私にも分かるくらいアルコール濃度が濃い。不味いけど美味しいお酒だった――。


 酒に酔った私はいつの間にか寝ていたようで、気付けば朝になっていた。深夜に寝たはずなので4時間くらい寝ていただろうか。ちょうどいい睡眠時間だ。


 私はまずシャワーを浴びた。体に付いた血の跡を落とす為だ。ひどく気分が悪く、眠気もあったので時間をかけてゆっくりと。シャンプーもボディソープもボトルを何回もプッシュしたけど、なかなか落ちてくれなかった。他人の血がこんなに消しづらいものであることもそこで初めて知った。


 今日は人生で1番の大舞台。せっかくだから、私は風呂上がりの暖かい体のまま鏡の前で、人生で1番のオシャレをした。裸の状態から1つずつ、服やアクセサリー、化粧で着飾っていった。


 あとは行ってこなすだけ。全ての準備が整った私は黒いパソコンでの最後の検索をした。


「明日以降 生き方」


 この計画を成功させたとしても、明日の世界を少しもこの目で見れないのなら面白くない。だから、聞いてみた。


「痛み止めや解熱剤を飲めば多少は長生きできますが、あなたが今日から明後日を迎えることはないでしょう。しかし、この世に強く未練を持つ者は死んでもその場に留まることができます。」


 それを見ると、完全に迷いは無くなるどころか、実行するのが楽しみになってきた。苦しみも伴うが、その先には希望がある。


 もう後戻りはできない。私はお腹を押さえて玄関を開けた。

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