word17 「怖い話 本当」③
暗闇をフラッシュ無しで捉えているのでよくは見えない。ぼんやりと形だけが写っている。
けれど、たしかに長い髪の女らしき姿がそこにあった。
服が白くて、肌も白い。どちらかと言えば華奢な体系。見て分かるのはそれくらい。顔のパーツもぼやけてしまっている…………けど、薄っすら笑っているように見える…………口元……そして……。
俺はそれを見た時に、なんだか今までにない喉のつまりを被った。一瞬呼吸が苦しくなって、その場で咳き込んだ。
ただ驚いたというだけではない何か。表現できない身の危険を突き刺されるように感じた。
もちろん、偶然その時通りかかった同じマンションの住人が写っただけかもしれない。けど、これは……明らかにこちらを向いている。
それから俺は自分1人だけじゃとてもじゃないが抱えきれない問題を匿名掲示板で共有して、ドアホンに保存された画像も載せた。眠れない夜を朝まで顔も知らない連中と乗り切った――。
その後、彼の身の回りには奇妙なことが起こるようになったそうだ。
初めは毎日深夜に自宅のドアが何度もノックされるようになったこと。チャイムが鳴った次の日から、チャイムが鳴ったのと同じような時間に決まってノックされる音が部屋に繰り返されるようになった。
何度か勇気を出して外を見ても、ドアホンのモニターで見ても誰もそこにはいないのに。
あとはどこまで関連や信憑性があるのか分からないが、呻き声が聞こえたり、ベランダに鳥の死骸がいくらか転がっていたり、毎晩悪夢にうなされたり、ポルターガイストがあったり。
それらの事象には証拠の画像や動画が添えてあるものもあった。
そんな「閲覧注意」と付けられたリンクの先や、匿名掲示板の話の流れを見ていった僕は今、この男と同じ経験をしたかのような気分に陥っていた。
特に最初の謎の女の画像。サイトにも書かれていることだが、よく見ると女の両肩からはそれぞれ2本の腕が生えているかのようになっている。
実際に深夜のチャイムからのことを加味したその画像のインパクトと言ったらもう。しばらく忘れられそうにない。
そして最後は深夜のノックに嫌気がさして、ある日いよいよ外へ飛び出した男が、しばらく散歩して帰ってくると、そこにはまだノック音がしているドアがあって。よく確認すると実は中から叩かれているように聞こえるらしかった。
「待って まだいる 中にいる」
「こっちから覗いたら 手が見えた」
「右手が2つ」
最後にそんな書き込みを残した男がその後どうなったかは語られていなかった。
同じ匿名掲示板を覗いていた人が心配する書き込みをしても返信が返ってくることは無かった――。
終始匿名掲示板テンションで語られていて……この件について大家や警察に相談するのは、普通に生きているだけで騒音や悪臭で注意されたことがあるので大家と顔を合わせるのが嫌という理由でやらないというユーモアさも感じるエピソード。
だけどそれを加味しても僕はその怪談が怖かった。とにかくそのリアルさが、幽霊と言う物を身近に感じさせた。
大抵は作り話であろう怪談に、本当にあった話なんじゃないかと思わされた。
読み終えて数分経ってもまだ落ち着かない。鳥肌が二の腕に憑りついたまま、鼓動が収まらなかった。
あの本物か疑わしい心霊写真に写った女の姿も、呻き声を捉えた暗い部屋の動画も頭の中で繰り返される……。
「でもまあ……これも作り話でしょ」
僕は言い聞かせるように声に出して言った。
隣人に聞いてみた話も、マンションの掲示板に匿名で不審者の情報を尋ねた話も、作ろうと思えば余裕で作れる話だ。
これは作り物だ。実際にはこんな事件は起こらなかった。
言い聞かせてみても、僕はしばらく寝れそうにない精神状態になっていた。体を動かすのも怖くてできない。
だから、僕は一応確かめることにしたのだ――。
まさかそんなはずはないけど、ちょっとこのままにしたままでは気になってしまう。
「怖い話 本当」
黒いパソコンによる検索だ。普通のスマホで幽霊が実在するとかどうとか検索するのじゃダメだ。確定させたい。
さっさと寝たいので暗い部屋のままで、僕は黒いパソコンのEnterキーを叩いた。
待ってる間は後悔が僕を襲う。それというのも、逆に本当という結果が出てしまったら、一体どうすればいいのだ。
そして結果は表示された。最悪の結果だった。
「あなたが先ほど読んだ怖い話は本当にあったことです。被害者の男は四つ腕がある女の幽霊に首を絞められて殺害されました。」
僕はそれを見た時に、なんだか今までにない喉のつまりを被った。
画面を見たまま固まってしまう。
「幽霊は実在します。基本的に生きた人間では認識もできない死んだ人間の現世に留まる魂だけの姿ですが、非常に強いストレスを抱えた人間が死ぬ、または寝ている間に無意識で魂が抜け出すと人に害を及ぼす幽霊になります。」
続いて表示された文で、さらに指先まで固くなってしまった。
いやいや嘘だろ。黒いパソコンにからかわれているだけだろ。そう思ってまた画面が切り替わらないか待ってみても何も変わってくれなくて、信じる他なくなった。
つまり、あれか……。この男を殺したような幽霊が今もこの世界のどこかにいるというのか……。
戦々恐々としていた時、僕の部屋のドアを叩くノックの音がする。軽い力で3度――瞬時に僕は臨戦態勢に入る――。
「まだ起きとんか。早く寝ろよ」
肥満体系の父がドアを開けるとすぐ閉じて、トイレの方へ歩いて行く音を立てた。
一瞬今日一番の緊張感があったが、僕はそれで少し安心を得られて……。
デスクライトを灯したまま、足先までしっかり布団にしまって眠った。
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