第35話 皆殺し
敵は八大地獄の鬼を虐殺しに動き出した。ミケを先頭に悪魔が動き出す。
閻魔の間では、ニャン吉達は次の戦闘に備えて英気を養っていた。年明けと共に始まった反乱も、早三日目の昼になった。
今晩は、もっさん、イーコ、あああ、例のトンビが死神として転生してくる日だ。転生とはいったが、今の体に命を定着させるだけでニャン吉と変わりはない。
正月の三ヶ日は乱の対応で手一杯。門松を用意していたが、出す暇もない。
「竹やぶ焼けた! ただそれだけだ」とクラブがクールに歌った。
レモンは何故か閻魔の膝の上に座っていた。いつもより小さくなったレモン。
「レモン、そんにゃ所に座ってどうしたにゃ? いつも清潔なお前らしくもにゃい」
「ニャン吉様。何故かここが落ち着くのデス」
閻魔は笑って「閻魔帳の種から生まれた鬼だ。無理もない」と言うと、レモンの頭を撫でようとした。レモンはその手を払い除けた。閻魔の手から血がしたたり落ちる。
「まるで赤子みてえだな」と骨男が笑う。
「クエッ」とタレも笑う。
ほんのひとときであったが、和やかな空気が流れた。
魔界鬼市は今も爆裂草の種を吐いている。レモンがそれを防犯カメラで監視していた。
「ふっ、御主人と閻魔に逆らおうとしたから鬼市はレモンの逆鱗に触れたのだな」
「そうデス」
クラブの考えは的を射ていた。大体はそれであっていた。しかし、レモンがそれだけで動いていたかは謎であるが。
武蔵は「今朝話があると言っていたな」とレモンに尋ねた。
「あ! 忘れてイマシタ」
「大事なことなのだろ?」
「ハイ。仮定の話なのデスガ」
レモンは閻魔帳を頭に乗せる。
「仮定の話なのデスガ、古小鬼……魔界鬼反の使った転生の技について気付きマシテ」
「それは一体?」
「具体的には言いにくいのデスガ、私ハ閻魔帳の三世の化身デス。閻魔帳は本来生命について記録することが仕事デス。鬼何体分の生命力とか、万象の属性などはまだ見通せませんが、生命が完全でなければ気付きマス」
「生命力と属性が分かるようになるのか! いや、まあそれは後にしよう。続きを」
「ハイ、古小鬼と戦ったあの時、古小鬼の生命は半分しかありませんデシタ」
「残り半分に分けた魂が今も俺達を狙っているわけか……なるほど。不埒の言葉は真実味を帯びてきたな」
閻魔はレモンの仮説を聞くと苦笑いする。
「ああ、あの時わざと殺されたのだな。悪寒谷の前世の肉体にあった半分の生命を取り戻すために」
骨男が「で、誰に転生したんでしょう?」と閻魔に聞いた。
「鬼や魔ではないかもしれんぞ」
「天使とか死神……」
骨男は戦慄した。
そんな折、急報が入った。目つきの悪い伝書鳩が手紙を持って来た。ぶつ代が手紙を受け取って中身を見るとみるみる顔色が変わる。その知らせを閻魔に伝える。
「何! 毒、水、風地獄でミケ等が暴れていると」
「はい! 目も当てられない虐殺をしながら移動しているとのことで……大寒地獄にも現れたとの目撃情報があります」
「して、その被害は?」
「……千を超す鬼が亡くなったと」
閻魔は立ち上がる。レモンが転げ落ちた。
「千だと! 三つの地獄でこの短い間に千も犠牲者が出たのか!」
「いいえ! 三つの地獄だと被害は五千を超えるかと……」
「五千だと!」
閻魔の「五千だと!」の声にニャン吉達は言葉が出ない。
閻魔の間にいる者は皆、愕然とした。
ニャン吉は立ち上がると「皆、行くにゃん」と縮地の準備をした。
「獅子王、大寒地獄へ行くのか?」と閻魔が確認する。
「もちろんだにゃ! 奴等を倒すにゃん!」
「分かった、行くがよい……。して、武蔵よ」
閻魔は武蔵の方を見る。
「分かりました。俺は被害のあった三地獄を見て回りましょう」
武蔵はニャン吉の方を振り返ると「大寒地獄には剣士も
「分かったにゃ」
ニャン吉は、タレ、骨男、クラブに声をかけ大寒地獄へ行こうとした。
「どうして私をおいていくのデスカ?」
レモンがニャン吉についていこうとする。
「まだレモンは全快してないじゃにゃいか?」
「大丈夫デス。もう三日も休んでいるのデスカラ。三日天下と言いマス。三日坊主とも言いマス」
レモンはどうしてもついてくると言って聞かない。
「分かったにゃ……。でも、無理はダメだにゃんよ」
「ハイ、私は一世鬼。力が皆さんに及ばないことは重々承知デスガ、お役に立ってみせマス」
ニャン吉は本当は連れて行きたくなかったのだが、レモンが押し切った。
レモンは焦っていた。一世鬼のハンデからニャン吉の役に立てないことに歯痒さを感じていた。
「獅子王、相対的絶対零度村に招き邪王猫を置いてきたからそこへ縮地しろ」と武蔵はニャン吉に勧めた。
そして、ニャン吉達は武蔵と二手に別れた。
――集太郎の予言は的中する。この遠征から一世鬼・三世レモンが帰ってくることは無かった……。死出の旅となったのだ……。
――相対的絶対零度村のツルリンクへ縮地したニャン吉達。辺りの様子をうかがう。
「静か過ぎる……」
クラブがいち早く異変を察知して千里眼で周囲を見渡す。しかし、ほとんど反応がない。
「おかしいぜ相棒。ここには悪寒谷の極悪囚人共があふれていたはずなのに」
「……分からにゃい。とにかく、気配を断っているにゃ……。千里眼の洞察力を高めにゃいと」
クラブは氷で滑らないようにタレの背に乗った。
「クエッ、誰か来る」
タレの千里眼はニャン吉達のより強力であったため、高い洞察力で微かな気配を察知した。
「クエッ、三つの生命が動いている……どうするニャン犬」
「こちらも気配を断って近付こうにゃ」
「クエッ、ニャン犬の間抜け面見て笑って許してくれればいいが」
「にゃに?」
ニャン吉達は気配を断ち、三つの生命を追いかけ村の中央へ。
役立たずの噴水が見えてきた。そこまで来ると、何やら焦げ臭い匂いが鼻を突いた。地面には、真黒な何かが転がっている。真黒な何かに目を凝らした時、ニャン吉は言葉を失った。
「にゃ! 古代生物達が炭になっているにゃ……」
大寒地獄で出会った友の変わり果てた姿であった。友の遺体はいくつも転がっていて、ことごとく焼き払われていた。
「こりゃあひでえ……」
「クエッ」
骨男もタレも無念であった。
クラブは遺体の顔に黄色いハンカチを被せて祈りを捧げた。
「油断大敵だぞ獅子王。駿馬もいるな」
「にゃ! あ、天馬」
声の主は赤兎馬天馬であった。天馬の後ろには、大蛇の
ニャン吉達と天馬達は村の役立たずの噴水に座った。空には七色のオーロラがかかっていて、その美しさは束の間、動乱の最中ということを忘れさせてくれた。とクラブは歌う。
――ああ無残。ミケ達の手にかかり、ニャン吉の友は炭となってしまった。
緊急事態宣言レベル二、
『次回「雪原城の切り札」』
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