第15話 ペラメッドへ
赤く鈍く光る溶岩の下に沈んだ大地地獄。邪魔台国も跡形も無い。火炎地獄ほどではないが凄まじい熱気である。
「クエッ……死火山じゃなかったのか……」
「……予想外だ」
武蔵とタレは驚愕した。
集太郎とペラアホはニャン吉と初めて大地地獄へ来たときに「あの時も爆発した」と振り返り語る。
皆は千里眼で生き残りを探した。
「タレ! あそこに人がいる!」
「クエッ! あれは……ペラメッドか!」
皆が千里眼を使って視たのに生き残りを発見したのは武蔵だけであった。大部分が溶岩に沈んだジリジリ砂漠であったが、その中にある未だ無事のペラメッドへ向かってタレは一気に飛ばして行く。
ジリジリ砂漠の上を飛行する……いや、しているはずなのだが砂漠はことごとく溶岩で埋め尽くされていた。以前は夕陽に照らされた砂漠が黄金に輝いていたのだが、今は鈍く赤く発光している。
途中、クラブが「武蔵師匠よ、どうして俺達と千里眼で視える範囲が違うんだ?」とずっと気になっていたことを聞いた。
「千里眼の視力は五眼、つまり段階以外にもあってな。見渡せる距離と、魔法や気配を絶った者を深く見抜く質、の二つの視力もある」
「なるほど。段階、距離、質か……クールだぜ」
クラブは暗い空を見上げ、乾いた風にただ吹かれていた。より詳しく説明すると、暗闇の空を疾駆し向かい風に挑む者。ハサミをかざし、顔に吹き付ける風を避けながら遥かなる空見上げるクラブ。
そんなことを思い格好をつけながらタレの背に乗っていたが、途中で脚が釣ったみたいで全ての脚を動かして痺れた。
ペラメッドへ着いた。タレは「減速クエクエ」と注意したのだが、クラブは脚が釣っていて踏ん張れない。タレの急ブレーキと同時に毛ガニのロケットがペラメッドめがけて飛んでいった。
ペラメッドの頂上に降り立ったタレ。ペラメッドは襲い来る溶岩を物ともせず、中にも入れず、全て塞き止めていた。沈むことなく不動の金字塔。
頂上にある入り口までは溶岩は届いていないのでそこから中へ入る。中に入ると開口一番、「これは壁画じゃなーいよ」とペラアホがしたり顔で皆に教えるが……誰もがそれをただのヒビだと分かっていた。タレはペラアホに何かを言いかけたが、一つ大きな溜息を吐くと「クエッ」と言った。
ペラメッドの広場へ入るとそこには邪魔台国・七村の皆が避難し身を寄せ合っていた。
集太郎とペラアホの姿を見かけると、
「君達か……ニャン吉……いや獅子王はいないのか?」
秦一郎の声は暗く沈んでいた。
「今は蝶々達と別行動じゃ」
「ニャッキーは閻魔の間だーよ」
虫達の言葉にますます顔を曇らせる秦一郎。そこで、代わりに武蔵が出てきて事情を説明した。
「――獅子王はそれで今、治療中です」
「ああ……父上!」
秦一郎はそう叫ぶと肩をがっくり落とした。
心配した武蔵が事情を聞くと、秦一郎は話し始めた。
「実は……父が行方不明なんです……」
秦一郎が言うのには、三途拷問は囚人が大脱走したあの日。大脱走の直前に山の異変に気付いて山頂へ見に行ったのだ。そして、そのまま行方不明となったのだ。
集太郎は涙目で「お爺しゃんは山へ芝刈りにか」と言うと、ペラアホは泣きながら「違ーうよ。火山へ燃え盛りに行ったんだよー」と訂正する。
武蔵は虫達を静かにさせると「分かりました。我々にできる範囲で捜索させてもらいましょう」と約束した。
タレは武蔵の頭をクチバシで突いて「クエッ、拷問爺さんなら顔を知っている」と知っていることを伝えた。少し強く突きすぎて武蔵の頭から少し血が垂れてきた。
突かれた所を少し痛そうに押さえながら武蔵はタレに拷問を空から探すように指示する。
「クエッ! 分かった……武蔵、頭」
「大丈夫だ、できるだけ速く探してきてくれ」
タレはペラメッドの屋上へ飛んで行くと、そこから外へ飛び出した。そして、『火球』を使って飛ぶ。
秦一郎は残った武蔵達を柩の間へ案内した。そこには、三途家の一族が集まっていた。言うまでもなく、モモの入っていた柩は空っぽで、蓋は破壊されていた。
そこで、武蔵は秦一郎から詳しいことを伺った。
――大脱走のあった元日、その丑寅の刻より少しばかり時を遡る。大地地獄ではある異変が起こった。山に幾筋も噴煙が立ち昇り、轟音が響き渡った。
拷問は、それを観ると「これは……まずい。大噴火をするぞ!」と危惧した。そして、三途家の皆を緊急で集めて「わしは、これから山の様子を見てくる。もし、噴火したらわしのことは捨て置き、村の皆と共にペラメッドへ避難せよ!」と言い残して山へ様子を見に行った。
丑寅の刻になった。その時、囚人の大脱走が起こった。邪魔台国の皆は即座に応戦した。だが……火山もほぼ同時に噴火する。溢れ出す溶岩が山を、村を、そして囚人兵を飲み込んでゆく。
村人は噴火と同時に囚人兵との戦闘を止め、拷問の言葉通りペラメッドへ一心不乱に駆けて行った。山へ一人登った拷問を置いて……。
武蔵は三途家の皆を励ます。
そこへ、タレが引き上げてきた。
「どうだった?」と武蔵は尋ねるが。
「クエッ……見付からない」と報告。
タレの報告に三途家も村の皆も落胆する。
拷問の孫で秦一郎の娘の
「お父さん、爺は生きてるよ。絶対このパズルを完成させるって言っていたもん」
秦一郎の子供達は拷問の生存を信じていた。
「終子……そうだね。皆! 大人の我々がそれを信じないでどうする!」
秦一郎の激に皆は立ち上がる。
「武蔵さん! 私達は大丈夫だから早く次の地獄へ行ってあげてください! 父なら絶対大丈夫です! このピースを残して逝くなんて父らしくないですから!」
「分かりました!」
三途家の皆は涙や汗を拭いた手で力強く拳を上げる。
武蔵は、次の地獄へ行くために縮地の準備を始めた。広場で招き邪王猫を置くと、虫達にも監視虫を置いておけと指示。
武蔵達は三途家や村人に別れを告げ、水地獄の下り門へ縮地した。
――大地地獄は溶岩の下に沈む……。行方不明の拷問の生死は……拷問は最後のピースを埋めに帰ってくるのか……。
緊急事態宣言レベルニ、
『次回「それぞれの反撃」』
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