エピローグ
「で、その林さんて人と付き合うことになったわけなの?」
「まぁね」
縁というのは不思議なもので、真尋とは何年もすれ違っていたのに、一度再会をするとすぐにばったり出会ってしまうものだ。
その日は休日で、夕方から麻里佳と会う約束をしていた。昼の間に買い物をいくつかしていたら真尋とばったり会ってしまった。今度はちゃんと話をしようと、ふたりで近くの喫茶店へ入った。
高校卒業から最近のことまで、お互い溜まりに溜まった話をたくさんした。
そして一通り話が終わった最後に、後輩の女の子と付き合うことになったと伝えた。
「花が彼女ねぇ。高校の時から女子人気あったものね」
「そうなの?」
「バレンタインたくさん貰ってたでしょう?」
「あー……そういえば」
「鈍いなぁ。相変わらず」
そう言って真尋は困ったように笑う。
表情や仕草のひとつひとつが、ずいぶんと大人になったと思う。高校生ときは、大人っぽい雰囲気の中に子どもの顔が少し覗いていたが、今やすっかり成熟した大人の女性である。
私はと言うと、煙草を吸ったり止めたり、そのくらいしか変わってない気がする。
「年をとったからって、自動的に中身まで大人にはならないよ」
「でも、変わったこともあるでしょう?彼女も出来たわけだし」
「そうだね。あの子には色々と感謝してるよ」
麻里佳が真っ直ぐに向かい合ってくれたから、自分も一歩を踏み出せたんだと思う。真尋とこうして普通に話せているのも、麻里佳とのことがあったからだと思う。
そのお返しに、彼女のことはこれから大切にしていかないといけない。
「あ、いい時間だ。そろそろ行かないと」
時計を見るともうすぐ待ち合わせの時間だ。
「デートですか。まぁ私も今から香織の家に行くんだけど」
「じゃあまた。連絡するよ」
「あ、そういえば。林さんだっけ?彼女の写真ないの?見せてよ」
「あー……あるよ」
あるけど、ちょっと見せづらい。
私が持っている麻里佳の写真は、取材用のデジタル一眼で綺麗に撮ったやつしかない。付き合うことになったあと、本人がセルフタイマーで撮影して、パソコンで明るさ調整までした1枚を送りつけてきたのだ。スマホで気軽に撮った物とは気合の入り方が違うので、人に見せるのは恥ずかしい。
だが、私は真尋の彼女を見たことがあるし、隠すようなことでも無い。
少し悩んだ結果、見せることにした。
「はい。これ」
スマホで表示させて真尋に見せる。アイドルの写真のように笑った麻里佳が大きく映る。
「どれどれ……」
ワクワクした顔でスマホを覗き込む。真尋でも、友達の恋人がどんな人なのかは気になるようだ。
麻里佳の写真を見た真尋は、眉を寄せて何かを思い出すような表情になる。
「あれ……この子知ってる」
雨、レストラン、煙草、神社 九道弓 @kudo_q
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