第27話 謎の巣作り

 俺は冒険者ギルドに紹介された女性に、父親を紹介された時点で、まあ、ある程度の反応は予想していた。

「あ、あんた、こないだの……。

 ソフィア、冒険者ギルドに紹介されたというのは、本当にこの男で間違いないんだろうな!?」

「この男だなんて、失礼ですわ、お父様。

 お父様も、一度アスガルドさんに、依頼を打診なさったのでしょう?」

「──お久しぶりです、ロリズリー男爵。

 今日はお嬢さんからの依頼で参りました。」

 俺はロリズリー男爵にお辞儀をする。


「か、帰って貰え!コイツに頼むようなことなど、何もない!!」

 ソフィアさんは呆れたようにため息をつく。

「……お父様?

 山に現れたゾーイをすべて討伐していただくのに、普通の冒険者の方たちにお願いしたら、いったい、いくらかかるのかお分かりですか?

 一度、私に断りもなく、冒険者の方たちにお願いした結果、確かにしばらくの間は、ゾーイはいなくなりました。

 けれど、今回再び現れたことで、再度討伐を依頼をする必要が出てまいりましたわよね?

 今までいなかったものが、集団で現れたのですもの、原因を解明しない限りは、おそらく何度でもゾーイは現れます。

 一度この方に見ていただいて、その上で討伐しか手段がないのであれば、それも検討しましょう。

 ですが、今はその時ではありません。」


 大人しそうなお嬢さんだが、ピシャリと父親をやり込めている。

 ロリズリー男爵は肩を落としてうなだれた。

「……うちには、あまりお金がないのは事実だ。

 先日はすまなかった。

 討伐以外で、何か手段がないか、見つけ出して欲しい。」

「──わかりました、できる限り善処します。」

「わしは自分の執務室に戻る……。

 何か進展があったら教えてくれ。」

 そう言って、ロリズリー男爵は応接間を出ていった。


「……先日父が失礼を差し上げたこと、冒険者ギルドの方から伺いました。

 ロリズリー男爵家からの依頼であれば、アスガルドさんには、依頼を受けていただけないやも、と。

 ですが、こうしていらしていただけて、大変感謝致しております。」

 とてもよく躾けられたお嬢さんだった。

 俺は少し、ロリズリー男爵という人を見直した。

「……ご存知かとは思いますが、貴族の娘が嫁ぐには、娘の親側からの持参金が必要になるのです。」

 ソフィアさんは目線を落とす。


「──爵位が高い家柄であれば、爵位を求めて、お金のある商人や、裕福な下位貴族から、結婚の申込みがある場合もございます。

 ですが、我が家は男爵家。

 求める程の爵位でもなく、この通り、自宅と山以外に財産と呼べるものがなく、店を1つ持ってはおりますが、あまり裕福ではありません。

 ……父は、私の結婚相手探しに、やっきになっているのです。

 その為に、稼げると噂の、アスガルドさんのお仕事に、飛びついてしまったのでしょう。

 娘を思う父の過ちとして、どうか水に流していただけないでしょうか。」

 ソフィアさんが深々と頭を下げた。


 なるほどな。先日応対した際、随分と焦っているような気がして、借金でもあるのだろうかと勘繰っていたのだが、そんな理由からだったのか。

「……そうでしたか。

 俺にも娘がおります。

 娘が嫁ぐまではと、どんな父親も、自分が持ちうる限りの力で、出来るだけのことをしてやりたいと思っている。

 そういうことでしたら、俺も遺恨を残さず仕事が出来そうだ。」


 俺がそう言うと、ソフィアさんは、ほっとしたような表情を見せる。

「ありがとうございます。

 ……父は少し、見栄っ張りなところがあるのです。

 貴族として、舐められないよう、自分を大きく見せようとして、他人をわざと威圧してしまう。

 本当は、とても小心者で、優しい父なのです。」

「……仲がおよろしいのですね。」

 俺の言葉に、ソフィアさんが微笑む。


「はい、わたくし、父の事が大好きです。

 とても尊敬致しております。」

「それはとてもいいことだ。」

 俺もつられて微笑んだ。

「では、山に向かいながら、状況をお聞かせ願いましょうか。」

 ソフィアさんは、はい、と頷くと、俺とリッチを伴い、ロリズリー男爵家が管理しているという山に案内してくれた。


「──あちらです。」

 見上げると、たくさんのゾーイが木に巣をつくり、羽ばたいている。

 ゾーイは雑食の鳥の魔物だが、基本的に同じ場所に巣を作り、こんなに一度に大量に、今まで巣を作らなかったところに現れるというのは珍しい。

 おまけに、一度別の冒険者が討伐したにも関わらず、再度同じ山に再び大量に現れたとなると、ソフィアさんの言う通り、この山に何かしらの原因があることになる。

「ちなみに、あれはいつから?」


「ひと月ほど前からになるでしょうか。

 近付くと人を襲いますし、大量に落とされるフンで、山が傷んでしまっています。

 山で取れるものを食べたり、うちの店で出すものに使っているのですが、それも出来なくなって困っているのです。」

「なるほど。ちなみに、何かこの山で、最近変わったことはありましたか?」

「私も父も、あまり山には詳しくありませんので、普段採集するものについてしか分からないのですが、特別変わったことはなかったように思います。」


「分かりました。

 ここから先は危険だ。

 ソフィアさんは先に帰って下さい。

 俺はこのまま調査を続けます。」

「……よろしくおねがいします。 」

 ソフィアさんはお辞儀をすると、一人で山を下って行った。

「──リッチ、少し大変だが、頑張ってくれよ。」

 俺はリッチを撫でる。


 ゾーイの群れに近付かないと、何が原因であるのか調べる事が出来ない。

 おそらく巣がある場所の周辺に原因があるのだとは思うが、リッチよりもランクの低い魔物とはいえ、あまりに数が多過ぎる。

 ちなみに、ゾーイが巣を作る木の傾向は決まっている。

 背が高く、葉の面積が広く、枝をたくさんのばして、外敵から身を隠しやすく、かつ、雨風が避けられる木だ。

 該当する木の枝の根元に巣を作る。


 だが、この森には、一見してそんな木は、殆ど見当たらず、実際にゾーイが巣を作っている枝も、遠目から見ても、ほぼ巣がむき出しだ。

「なんで、こんなところに……?」

 俺はゾーイが集まっている場所に近付いていった。

 ピィー!ピィー!と、ゾーイが仲間に警戒を知らせる鳴き声を上げる。

 自由に空を飛び回っていたゾーイたちが、一斉にこちらを向いた。

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