第166話


 着いたのは学園都市内でも特に規模の大きいデパート、ミルテマート。


「それで、服だったかしら?」

「ああ」

「あと水着な」

「そうだったわね」

「忘れろ」


 烏川にまでふざけられると流石に僕では対処できない。


「はいはい。私は店の外で待ってるから、安良川、桐堂の事頼むわよ」

「任せろぉい」

「何でコイツが保護者みたいになってるんだ」

「まーまー、良いじゃねぇか」


 そう言ってバシバシと肩を叩いて店内へ誘導する安良川。


 デパートもかなり大きな建物だが、やはりその中にある店も広いということをつくづく思い知らされる。


 見渡す限り、服、服。


「さーて、どんな感じがご所望だ?」

「何も分からないからお前に全部任せるよ」

「ほほぉ、そりゃ責任重大だな」


 ニヤっと笑って肩を鳴らす安良川。


「なんたって勝負服だからな!いやぁ、それにしても烏川さんねぇ」

「だからやめろって」


 頼む人材を間違ったかもしれない。


 そんな時、見覚えのある人物が。頭部のツノをうまい具合にフードで隠した鬼人の青年。


「おっ?大江山じゃねーか」

「……?安良川と、桐堂か」


 大江山。一度僕が自暴自棄になる原因にもなった人物だ。一応和解したとはいえ、わざわざ会おうとは思わない相手。


「(まさかこんな所で……)」


 対する大江山はさほど気にした様子もなく、至って普通に話しかけてくる。


「何をしている?」

「桐堂の服をな。せっかくの夏休みだからモテる為におめかししてーんだとさ」

「語弊があるが、とりあえず服を買いに」

「ふむ、成る程な」


 大江山はそう頷くと腕時計を見る。そして「まだ時間があるか」と、呟くと僕を見る。


「以前の詫びだ。俺も手伝ってやる」


 何故かまた1人、イレギュラーが増えたのだった。





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