第157話


「逃げられるものなら」


 窓から飛び出し、次の階へショートカットする。


「逃げてみなさいな!」


 見えない敵に対し、クナイを振るう。避けられたが、わずかな手応えと共に布の切れ端が宙を舞う。


「貴様、まさか見え……」

「勘違いしないで頂戴。目なんて私にとって飾り物」

「やはりお前を先に始末するべきだったか……!」


 駆け出す足音。その音と匂いだけを頼りにそのまま追跡する。逃げ足が加速する。


「っ……!」


 そして廊下を曲がった瞬間、私は"その先で待つ燕翔寺に"端末で合図を送る。


 曲がった先は階段。そして玄関への長い直線の廊下へと続く。


「行きます……!」


 燕翔寺の放つ蒼炎がその長い廊下を突き抜ける。


「あづっ……!?」


 ビンゴ。流石に直撃はしなかったが、真横を通り過ぎただけで一瞬にして隠密が剥がれた。


「クソッ……!」

「逃がすか!」


 すかさず小夜時雨を投げつける。


「がぁぁぁっ!?」


 命中。桐堂を抱える右肩を切断し、手元へと戻ってくる。


「クソッ、クソッ……!」


 桐堂の回収は不可能だと察したのか、そのまま逃亡を図る。


「智恵。2分後に傘草がここに来るから、それまで桐堂の事頼むわね?」

「はいっ、お姉様」


 さて、と。


「早くしないと追いつかれちゃうわよ?」

「来るんじゃねぇ……!この……!」


 ビキビキという何かが軋む音が。それと同時に奴の身体が肥大化する。


「(いよいよ大詰めね)」


 人間擬の化けの皮が剥がれた。かつてこの世界支配したとされる大型爬虫類、恐竜のような姿。


「(隠竜。やはりこいつが正体だったか)」


体当たりで壁を破壊し、外へ逃走する。


「(でも、そんな図体で私から逃げられるかしら?)」


 そのまま追うように外へ飛び出す。が


「っ!」


 突然上空から鋭い牙が。逃げたと見せかけて、尻尾をうまく使い外壁にしがみついていたらしい。


「キュォォァァァァァァア!!!」

「クソトカゲが」


 噛みつきを躱し、その横っ面を蹴り飛ばす。


 怯んだ隙に後ろへ回り込み、尻尾を掴む。この尻尾は厄介だ。早めに斬り落とさせてもらう。


「はっ!」

「ギュァァァァァァァ!!」


 本気を出しても敵わないと悟ったらしい。尻尾を失った事でバランスを崩しながら、逃走する。


 その先には1人の清掃員が。


「あぶな……」


 逃げるよう警告しようとして、思いとどまる。


 その清掃員の右手には銀に光る拳銃が。


「(ああ、運がないわね。貴方)」


 次の瞬間、"ひとつの発砲音"が鳴り響く。


「ギュオオッ!?」


 それと同時に、"両足に銃撃を受けた"隠竜が跪き薬莢が2本、地面に落ちる。


「確保」


 その清掃員の号令で戦闘服に身を包んだ集団が一斉にかかる。そして、その清掃員の格好をした女性は帽子を脱ぎながら私へと歩みよる。


 風に靡く銀の髪に私と違う青く綺麗な本物の瞳。聖杯と並ぶ、人類の切り札の一つ。


 最終防衛機能【トキバナ】こと現・対策部の実質トップ【時花ときばな香織かおり】。


「お久しぶりですね。暁海ちゃん」

「ええ。久しぶりね、義姉ねえさん」


 そして私の、義理の姉だ。




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