第124話
「何何今の!?智恵ちゃん!?」
今まさに目に写った映像に道尾は興奮した様子で僕の肩を揺さぶる。
「ああ。燕翔寺、だな」
「凄くない!?ねぇ凄くない!?」
僕もあの光景は衝撃を受けた。そして、烏川の狙いにも気づく。
「(僕たちは燕翔寺の能力だけに気を取られ過ぎていた)」
これで誰もが分かっただろう。
本来の燕翔寺は後方で高火力の爆炎を出すしか出来ない、か弱い少女ではなく、優れたスピードと一撃必殺の切り札を持った1人の戦士だということを。
「おっ、戻ったな」
出入り口の方から2人の少女が現れる。オドオドする燕翔寺を烏川が誘導している形だ。
「燕翔寺さんっ!」
今まで避けていたクラスメイト達もワラワラと燕翔寺に群がる。
烏川の陰ながらの援護があったとは言え、ほぼ単独で緑鬼を圧倒して見せた。ただでさえメディアでの露出が多く、既にあった人気がさらに増している様だ。
「いやー、てか俺ら何の役にもたってなくね?」
「別に良いだろ?早めに解決できたんだから」
「それもそうだな!」
安良川はウンウンと頷き
「ううっ、一回焼かれた甲斐があったよ……!」
「おいおい泣くなよ」
道尾なんか感極まって泣いている。焼かれた甲斐ってなんだとツッコミたいところだが。
「………ん」
そしてら烏川もこっそりVサインをこちらに送っていた。相変わらずの無表情だが若干ドヤ顔をしている気がしないでもない。
「ねぇ燕翔寺さん、よかったら明日一緒に組んでくれない!?」
「俺と組もうぜ、な?」
「ぼっ、僕は、ど、どうです」
「男共はすっこんでろ!私なんかどうよ?」
まるでアイドルだな、という感想が頭に浮かぶ。ドサクサに紛れて約束を取り付けようとした渡瀬を含む男性陣は女子達によって排除される。
「えっと……皆様、落ち着いて下さいませ」
燕翔寺のその声にワイワイと騒いでいた女子達も静まる。誰が選ばれるのか、聞き逃さない様に。しかし
「明日、というよりこれから組んで頂こうと思う方はもう決めていまして。その、申し訳ございません」
そう皆に綺麗なお辞儀をすると、ある人物に向き直る。
「烏川様」
「え」という声がマスクに隠された口から漏れ出る。
「わたくしが此処まで頑張れたのは烏川様のお陰でございます。その、よろしければ……今後ともわたくしとペアを組んでは頂けないでしょうか?」
「別に……良いけれど……」
「ありがとうございます。それとですね……」
ほんのり頬を赤らめてモジモジし出す。なんなんだ、この空気は。そして、燕翔寺の次の発言でごく一部の男子達が歓喜する。
「僭越ながら、お姉様。と、お呼びしても宜しいでしょうか?」
どっと歓声が上がる。
「何これ……?」
困惑した烏川の声が騒然とした体育館にかき消されたのであった。
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