第118話

 烏川の保護対象である僕や候補生のメラノさんは勿論、思い返せば、燕翔寺はテレサ襲撃の際加勢してくれた。


 つまり、烏川の秘密を少しだけとは言え知っている事になる。


「(だから、か)」


 わざわざ隠す必要もないからついでに鍛えてやる、と。


「あのー、私は……」


 メラノさんが烏川の表情を伺うようにオドオドしながら聞く。が、答えはメラノさんが残された時点で既に出ている様な物。


「貴女も、に決まってるでしょう?候補生なんだから現役から何か学んでみたらいいじゃない」

「ひぃっ……」


 本来なら亜人であるメラノさんの方が"形式上は"普通の人間である烏川より有利なはずなのだが。


「桐堂もボサッとしない。貴方の特訓でもあるんだから」

「分かってる」


 用意していたダミーソードを右手に持つ。一応水鉄砲も持ってきているが、まだ空でポケットの中だ。


 それと、その前に


「なあ、烏川。僕にはコレがあるが燕翔寺は?」

「……そうね」


 当初の予定には無かった為か、燕翔寺の分は用意してなかったらしい。


 少し考え込んだ末、烏川は顔を上げる。


「本番みたいにやりましょう。桐堂はロッカとシオン、燕翔寺はレッセン。殺す気で来なさい」


 鍛錬もいよいよその段階まで来たか。と、すこし気分が高揚する。


「烏川様!?」

「何かしら、燕翔寺」

「そんな事危険過ぎます!」


 たしかに危険だろう。しかし、それは普通の生徒同士の話だ。


「大丈夫よ。ここの学園全員から同時に襲われても返り討ちにしてやる自信はあるから」

「うわぁ。なんか今日の暁海ちゃん、テンション高くない?」

「まあ、否定はしないわ」


 心なしか、口角が吊り上がっているように見える。


「で、貴女はどうするの?」

「わたくしは……その、やはり危険と申しますか……」



 烏川なら避けてくれるし、最悪直撃を受けても耐えてくれるだろう。つまり燕翔寺の苦手な克服にもってこいの相手だろう。しかし、燕翔寺は乗り気ではない様だ。


「そう、弱いままでいいのね」

「っ」


 烏川のドストレートな一言に空気が凍りつく。


「わたくしは……」


 反論しようとする燕翔寺に烏川は冷たく言い放つわ


「貴女のその弱さが、いつか本当に仲間を殺す」



「おい烏川、流石にその言い方は」

「貴方は黙ってなさい。これはこの娘の問題」

「………」


 たしかにその通りだ。結局のところ燕翔寺にその意思がない限りいくら手助けしようと意味がない。


「本当にやりたくないのなら止めないわ。ただこの道を選んだ以上、克服する意思がある物だと思って私はいまこうして質問してる」


「さあ、どうするの?ここまで言われても答えは変わらない?」


 烏川がもう一度問いただすと、燕翔寺は目つきを変え、烏川を真っ直ぐに見据える。


「お願い、致します……!」


 燕翔寺はついに決断した。


「そう来なくちゃ」


 烏川は地面にしっかり足をつけ、舌なめずりする。


「さあ、どこからでもかかって来なさいな」



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