第114話
『先生は分かっていない』
放課後。桐堂達には先に蔵ノ月の方へ行ってもらい、私は廊下で面談室での会話を立ち聞きしていた。
『落ち着け大江山』
『俺は落ち着いてますよ、先生こそよく考えて下さい』
「……」
どうやらただの生徒ではないのは確かなようだ。しかし、フォリンクリ側でもない。
ガラッ
「っ、烏川ぁ!」
「こんにちは」
私を見るなり飛び込んでくる大江山に対し、その土手っ腹に右足の蹴りをねじ込む。が
「ふんっ」
空中でガードし、そのまま華麗に着地する。
「先生、普通の貴方には分からないかも知れませんが、あの2人は危険なんです。特に桐堂、奴はいずれ人類に破滅をもたらします」
「普通の意味が分からんが、一応お前よりは把握しているつもりだぞ」
そう言って傘草は席を立つ。
「そして口ぶり的にお前は"普通じゃない"みたいだが」
「……ええ、普通じゃありませんよ」
ゆらりと構え
「特殊防衛隊所属、第三潜入派遣部隊」
傘草には目もくれず、大江山は瞬時に間合いを詰める。
「大江山 竜だ」
高速の拳。確かに、コイツの動きは年齢に不相応な鋭さを持っている。
「はっ!」
そして馬鹿正直で規律正し過ぎるこの固さ、我流では無い。軍隊仕込みだ。
「何が目的なのかしら」
「黙れ。貴様に答える義理はない」
今の今までは加減していたらしい。格段に動きが速くなっている。これは桐堂が超えるのは難しそうだ。彼には良い壁になってもらおう。
けれど
「(私には通用しないわ)」
振り上げようとした足を踏みつける。すぐに振り払われるが、その動作が隙になる。
「ふふっ」
振り払われたのを利用して飛び上がり、クナイを投擲しながら壁を蹴り、次に来る回避する。
「はっ、バカが」
そう言って敢えてクナイを受けながら着地を狙う大江山。
タイミングもしっかり計算されている。けれど
「貴方がね」
体を捻って落下するタイミングをずらし、その顔面に蹴りをいれる。
「まだまだこれからよ」
「ぬぐっ……!」
1・2・3っ、2・2・3っ。
そのまま踏みつける様にひたすら蹴り続ける。
「がああああっ!」
「あら」
強靭な腕力による薙ぎ払いを、再び飛び退いて回避する。今度は着地を狙っては来ない。
しかも、その顔面はほとんど傷がついていない。よほど頑丈な作りになっている様だ。流石は鬼人と言ったところかしら。
「面白いわね」
どうやら思春期特有の口先だけの自意識過剰野郎では無いらしい。
「まだ、終わってないぞ」
大方、私と同じ様に仮想体では本来の力を出せない様に制限されていたのだろう。達磨になったシュミレーションルームでの大江山とは大違いだ。
「あの2人も危険だが、お前はさらに危険な存在みたいだな。この学校の教師は見逃しても俺の鼻は見逃せないぞ」
「あっそ」
大江山は自身のハウンドを展開する。
大きな斧のような二つのハウンド。この形状はおそらくライローの一種だ。
「へぇ、二刀使いなのね」
手元に小夜時雨は無い。剣は使えない。残る武装は6本のクナイと靴に仕込んだブレードのみ。けれどそれぞれ急所をつけば屠るだけの威力はある。
「そこまでだ、2人とも」
しかしそこで傘草の静止が入る。
「模擬戦、対人訓練は認めているが本当の殺し合いを許可した覚えはない。双方刃を納めろ」
「私は何も持ってないわよ」
「靴、直して下さい」
「チッ」
意外と目敏くなったものね。誰に似たのかしら。
「もう良いです。ただ、俺は忠告しましたからね」
そう言って大江山はライローを仕舞うとそそくさと退室する。ああいう人の話を聞かずに自分の意見しか言わない奴は苦手だ。
「どうしてこう、次から次へと邪魔が入るのかしらね」
テレサといい、大江山といい、本当に鬱陶しい。
「仕方ないですよ。桐堂の力はまだまだ未知数ですからね。燕翔寺の能力も、未成熟でアレは強力過ぎます」
「まあ、確かにそうね」
桐堂の力だけに気を取られていたけれど、燕翔寺の能力も十分"異常"。何を食べたらあんな能力になるのかしら。
「って、そういえばオルカさん。さっき大江山の事殺そうとしてましたよね?困りますよ、一応生徒なんですから」
「あら、ごめんなさいね」
適当に謝罪しておく。でも、もし敵なら早めに始末するに越したことは無い。
「それにしても、困りましたね・・・」
「何が分かったのかしら?」
「ううむ」と顎に手をやり唸る傘草。何か思い悩んでいる様だけれど、何があったのかしら。
「大江山の所属先ですよ。対策部うちらと別の管轄の政府の組織です」
「ふーん、よく調べたわね」
「一応顔は広いんで」
そう言って傘草はドヤ顔でサムズアップしてくる。心底ウザい。
「で、私達とは管轄が違うならどこの組織よ」
「大江山が言っていた特殊防衛隊。あれは"防衛"の方です」
目眩がしてきた。
この国を守っている存在は対策部だけではない。防衛、元を辿ればこの国を長い間守ってきた自衛組織の政党後継者とも呼ぶべき存在だ。管轄も広く、フォリンクリだけでなく人害、災害も取り扱う緊急事態のプロ。
それで目的もはっきりした。奴らは以前の戦いで聖杯の前任者、羽義之にしてやられている。後任の桐堂を始末しようとするのはその経験からだろう。
だが、桐堂はテレサの誘惑を乗り越えた。羽義之とは違う。今度こそ彼は私たちの希望となる。
「(けど、そう簡単には行かないのよね……)」
私たちが裏組織なら彼らは表組織。国民の期待を一身に背負っている。可能性がゼロでない限り、妥協は許されない。そもそもハンターとはこの防衛の派生で、現役のハンターは形式上防衛所属になっている。
つまり、下手に動けば私たちは守るべき全人類を敵に回すことになる。
よりによって1番敵に回したくない面倒な相手とは。
「(どうにかしといてよ、姉さん)」
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