第108話


「実技は今日からペアで行ってもらう」


 午後、体育館に集まるなり傘草先生からそう告げられる。


 生徒たちの反応は様々だ。


 一人が気楽で良いのにと不満な生徒や、友達と一緒にゲームをするかのようにウキウキしている生徒など。


「今日は初めてだからな、好きな相手と組んで良い。明日からは違う奴と組んでもらうがな」


 その声と同時に生徒たちはそそくさと相手を見つけてペアを組む。


「(燕翔寺は……)」


 あたりを見渡すと道尾と一緒に座っていた。こちらに向かってウィンクしながら親指を突き立てている。「まかせろ」ってことだろうか。少し心配だが、相手が道尾ならまあ、大丈夫だろう。


「………多分」


 そして僕と同性である安良川は、アレでも存外にモテるらしく女子に捕まっていた。


「(なら)」


 僕が組める相手は彼女しかいない。


「烏川」

「なにかしら?」

「ペアを頼めるか?」

「お安い御用よ」


 案の定快く(?)僕の申し出を受け入れてくれた。


「よし、全員ペアを組めた様だな。今日は別のシュミレーションルームを使う。着いてこい」


 指示通り傘草先生の後をついていく。いつもなら体育館の入り口から入って左側だが、今回は右側だ。


「ここが入り口だ。ソロ様のシュミレーションルームよりかなり広くて4〜5人は入るが、今日は2人で入ってくれ」

「「「はいっ」」」


 次々と入室するほかの生徒たちに着いて行き、自分たちのシュミレーションルームを探す。


 「(あった)」


 扉の電子パネルには【桐堂・烏川ペア】と表示されている。


 ライセンスデバイスをパネルに近づけると、「ピコン」という電子音とともに画面が【承認完了】という一文に切り替わる。


 そして傘草先生から個人メッセージが。


『オルカさんは手強いぞ桐堂。せいぜい頑張れよ』


 一瞬何のことか理解できなかったが、ハッとする。


「(大きなお世話ですよ!)」


 やっぱり傘草先生は悪戯好きなところがあるらしい。見た目とのギャップが凄まじい。


「……?どうしたの?」

「いや、先生からちょっとした悪戯をな」

「ふーん。またあのクソガキが、ね」

「クソガキって、俺たちより年上じゃ」

「ガキに年齢は関係ない。ガキはガキよ」


 そう言って烏川は舌打ちする。


「もう一回泣かせた方がいいかしらね」


 僕は何も聞かなかったことにした。





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