第69話


 そっと寝かせた桐堂の髪をかき分ける。


「……あった」


 凸の様な形状をした突起物。いや、これは


十字架ロザリオ……チッ」


 触れてみて分かる。まだ脳髄までには到達していないけれどもかなり根強く侵入されている。


「少し痛むけれど、我慢しなさい」


 ズブブッ





〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜




「はっ!?」


 目が覚める。違和感を感じるが、それ以上に、独特の匂いに眉を寄せる。


「(っ、この匂い……何か燃えているのか……?)」


 起き上がって見渡す。すると、あるものが目に入る。


「なっ」


 真っ赤に炎上する教会。先程僕達が居た場所だが、それよりもすぐにある人物の顔が浮かぶ。


「テレサっ!」


 駆け出そうとしたところで何かに服の襟を掴まれ、押さえつけられる。


「烏川ぁ……!」


 睨みつけるも烏川は何食わぬ顔で僕の後頭部に手をやる。


「じっとして」


 そして


 ビリッ


「ああああああああああああああああああああああ!!!」


 あまりの激痛に、悶える。しかし、烏川の捕縛からは抜け出せない。


「やめろやめろやめろやめろやめてくれ!!」

「………あと少し」


 叫びながら懇願するが、烏川は無言。激痛は増すばかり。そして僕はあの名を叫ぶ。


「テレサァッ!」

「はい、テレサはここに」


 何かが頭から引き摺り出されたような感覚。相変わらず捕縛からは抜け出せないが激痛はすっかり止んだ。


「遅くなりました、桐堂さん」

「助けに、来てくれたのか……?」

「はい。もう私達は友人の様なものですから」


 その言葉に、また癒される。筈だった。


「(……?なんだ……?)」


 とてつもない恐怖を感じる。


 烏川からではない、味方であるテレサからだ。


「今そちらに向かいますね」

「動くなっ!」


 珍しく烏川は声を荒げ、あのナイフをテレサに向かって投擲する。しかし、そのナイフはテレサに突き刺さる事なく青白い膜に防がれ、途中で静止し地面に落ちる。


「桐堂、ここからさっさと逃げなさい。貴方を守りながらなんて到底無理よ」


 そう言って烏川は僕を解放する。


「……」

「私を信用出来ないのは仕方ないけど、今は逃げて」


 烏川は突如出現した黒い大剣を手に取ると構える。


「桐堂さん、こちらに」

「喋るな。お前が仕込んでいたロザリオはすでに破壊している。そのキッツイ香水の効果も今は意味無いわよ」

「あらあら」


 どうすればいいのか分からない。


「(僕は、どうすれば……どっちを信じれば……)」


「なら、仕方ありませんね」


 その声と共にテレサの姿が突然僕のすぐ目の前に。


「っ、桐堂っ!」

「あっ……」


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