第64話


「ふぅーっ」


 さて、と。


 桐堂の事は安良川とメラノに任せ、私はとある場所に来ていた。


 学園の側に聳える小さな山。その頂上には見窄らしい教会が。


「(清潔感って、こんなので良いのかしら?)」


 長い髪を一本に纏め、髪色も弄る。


「(このエレミュートで満ちたこの世界で黒髪なんか稀だしね)」


 といっても私の場合、白か青。少し頑張って金髪くらいしか出来ないけれど。


「おや、礼拝ですか?」

「いえ、違います。ちょっとこちらの教会に興味があって。少し見学しても良いですか?」

「どうぞどうぞ。可愛いお嬢さんは歓迎だ」


 さわやかな笑顔だが、その視線は舐め回すように下卑たモノ。多分、大当たりだ。


「さ、こちらへ」

「ふふっ、ありがとうございます」

「そう畏まらなくて良いよ。ほらリラックス」

「えーっと、じゃあ。これで良いかな?」


 オルカ。行動、開始。




〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜




 最近、烏川の動向が怪しい。


 以前から多少怪しい部分はあったが、最近はそれが顕著にあらわれている。気づけば席に居なかったり。


「(何を企んでいる?)」


 その上、もう護衛はしなくていい、と言ったばかりなのにずっと尾行されている感覚があった。


 迎え撃とうにもまず、正面からじゃまず勝てない。かと言って小細工が通用する相手でもないことはつい先日までの稽古で思い知っている。


 むしろ小細工でも勝てる気がしない。


「………よし」


 僕を尾行する気配はもうしない。上手く巻けたようだ。


「(今のうちに部屋に戻ろう)」


 ここのところ襲撃者も居ない。まさかと思うが、全部僕を信用させるための自作自演の罠だったのだろうか。


「(可能際は………無くはないな)」


 より一層警戒を強めなくては。安良川も最近よく絡んでくるから気をつけないといけない。


「(でも……)」


 誰かと話したい。


 人との接触を断つというのはこんなにも難しいことだったんだと思い知らされる。今日なんかつい安良川にグチを、本音をこぼしてしまうところだった。


「………」


 腹の虫が鳴る。そういえば今日は何も食べていなかった。安心して食事するために人の目を避ける必要があった。が、学園はどこに行っても誰かしら居て、僕を見て笑っている。


「(コンビニでも行ってみようかな)」


 もう日は落ちている。学園の敷地内とは言え、全寮制のこの学園で、この時間帯に訪れる生徒は殆ど居ない。多少の人の目は我慢しよう。



ピンポンピンポーン



「らっしゃいませー」


 ズキズキと痛む後頭部に、顔を顰めながら入店した。

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