第58話


「流石にはしゃぎ過ぎましたね。ここら辺で退散しますか」

「…………」

「では、また会いましょう。愛娘オルキヌス


 バゴォッ


「チッ」


 積み上がった瓦礫を蹴り飛ばし、服についた砂埃をはたき落とす。


「全く……」


 奴はもう何処かへ飛び去っていた。


「(逃げられた、というより見逃してもらったって言うのが一番しっくり来るかしら)」


 それよりも


「紅葉さんの馬鹿。自分よりこの橋を優先するのは分かるけど、進んで盾になる必要は無いじゃない」


 ちょっと焦げ臭い大きなフサフサに声をかける。


『まあ、丈夫さが売りだしね。アタシ』

「無理は禁物でしょ」


 鞘に収めた小夜時雨でコツッと頭を小突く。


『ごめんってば!』


 シュルシュルと元の人間の姿に戻る紅葉さん。


「流石にアレはヤバいわね」

「同感ー。暁海ちゃんは兎も角、アタシなんてガン無視されてたもん。敵とすら認識されてなかったよ」


 そういって自嘲気味に笑う。はっきり言って紅葉さんの実力は低く無い。



 むしろ対策部の中でもかなり上位に位置する実力者だ。


 もうその時点で訳が分からない。実力の差がありすぎる。


「まあ、その分暁海ちゃんにお熱だったね。警戒してたのかな?」


 たしかに、あの槍を投擲する瞬間だけ奴はあのバリアを展開した。


 それに私の攻撃のうち、小夜時雨による斬撃だけは全部防ぐ事に専念していた。


 この二つがもしかしたら決定打になるかもしれない。


「ともかく、さっさと移動しましょう」

「そだねぇー」|


 橋は無事、とは言えないものの、穴だらけにされただけでまだ修復可能な範囲。本部の方へ申請を出し、落ちた帽子を拾って被り直す。


「ほら、早く車出して」

「りょーかいりょーかいっ、人使い荒いなぁ。誰に似たのやら」

「さぁね」

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