第32話


「おやおやぁ〜?」


 聞き覚えのある声にバッと振り返ろうとするも、その前に肩に腕を回される。


「ハーレムですかい」

「違う」


 耳元で囁く声に即答で返す。烏川はボディーガードだし、燕翔寺は少なくとも今はまだ友人だ。


 特に燕翔寺は飛燕グループの社長令嬢。もう既に許嫁的な存在があるかもしれない。


「即答は逆に怪しいなぁ〜?」

「だから違うって」


 大人しめの燕翔寺や烏川とは対照的に明るい、というか騒がしいクラスメイト。道尾だ。


「いやぁ、良い御身分ですな」

「話を聞いてくれ……」


 男子みたいなノリだが、腐っても女子。女性特有の良い匂いが鼻をくすぐる。


「それで、何の用だ……?道尾」


 ドキドキしながらも、必死に平静を保つ。


「茜音って呼べよぉ!」

「いづっ!?」


 相変わらず苗字で呼ばれるのは嫌な様で、背中に張り手を喰らう。結構痛い。


「あの、何かご用事があったのでは無いのですか?」

「って、そうそう!本題忘れるとこだった!サンキュー智恵ちゃん!」

「ひゃぁっ!?」


 突然のハグにアタフタする燕翔寺。対する道尾はそのまま、その本題とやらを語り始める。


「ちょー、耳寄りな情報が手に入ってね……」

「………」


 思わせぶりな顔で気取った雰囲気を醸し出す道尾。


「それがね………なんと!驚きの!」

「前置きは良いから早く言ってくれ」

「ちぇー」


 渋々と頭を掻きながら口を尖らせる。ほっといたら似たような単語をひたすら並べそうな気がしたのは、気のせいでは無いだろう。


「隣のクラスの子から聞いたんだけどさ、なんか一つだけ席がずっと空いてるんだって。先生に聞いてみてもなんかはぐらかされただけで、教えてくれないみたい」

「………」

「でも昨日だったかな?一個上の先輩がその教室覗きに来たの。その時ね……」



『あそこ、まだ空いてんのかよ』



「って言ったの」


 背筋がひんやりとする。もう季節は春、それもだんだんと夏に向かっているというのに。


「それで、どうしたんだ?」

「先輩に聞いてみたの。何か知ってるんですかーって」

「お前凄いな」

「え?何が?」


 恐らく初対面だっただろうに、そんな自然に目上の人と会話できるなんて


「いんや、同じクラスの真くん使った」

「使ったってお前……」


 安良川 真。確か出席番号一番の人だったか。


「だって真くんも気になるって言ってたし」

「おう!」


 後ろからもう一つ明るい声が。噂をすればなんとやら、ということか。


「まあ、その先輩俺の知り合いだったしな。気にすんな」


 良いやつなんだろうが道尾と相まって大変騒がしい。まあ、同性の知り合いが増える事は嬉しいことだが。


「そしてね!そしたらね!去年からずっと空いてるんだって言ってて、座席表の名前まで一緒なんだって!」


 ゾッとする。が、ただの不登校の可能性も捨てきれない。しかし、話からすると虐めがあったというわけではなさそうだ。


「どう?廻影くん。凄いでしょ!?」

「ああ、詳しく聞かせてくれ」

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