第6話 助言【下】
お知らせ
今後、メッセージ・チャットアプリは『LIME』で統一することにしました。この世界には、もはやそのメッセージアプリしかないものと思ってお読みくださいませ。
これまでの表記も追々、修正していきたいと思います。
* * *
特に返事はない……けど、大丈夫だよな? 既読にはなってるし、間違って俺に送ったことは気づいただろう。
それにしても、こんなもんなんだな――なんて少し肩透かしを食らった気分で、スマホの画面を見つめていた。
卒業式の家族写真を送り合ったのを最後に途絶えていたLIMEのトーク画面。付き合いだして一夜明け、そこには『さしみ』、『間違ってるぞ』というなんとも淡白な業務連絡が追加され、再び、沈黙。
そりゃあ、もう十年近く一緒にいて、顔を合わせれば挨拶がわりに貶し合うような関係を続けてきたんだ。恋人になったからって、たった一日でそれが劇的に変わるようなことはないだろう……とは分かっていた。分かっていた……けども、もう少し……こう、何か……ちょっとはあっても良くね!?
『ほんとだ、間違っちゃった(笑)』とか……そんな一言くらいあっても――。
「『刺身といえば、俺は君を食べたいけどね』って送った?」
「送るかよ!?」
さらりとそよ風の如く流れ込んできたとんでもない問いにぎょっとして顔を上げれば、「え、なんで?」と白々しいほどにきょとんとする遊佐が。
「それくらい送れよ。もう彼氏なんだろ」
「どんな彼氏だ!? ただの変態じゃねぇか。しかも、『刺身といえば』って……なんも繋がってないだろ!」
「いや〜」と遊佐はわざとらしく思案顔を浮かべて腕を組む。「帆波たんも、実はそういう返事を期待して『刺身』と送ってきた可能性も……」
「あるか! てか、『帆波たん』って呼ぶなって何度言えばいいんだよ」
あー、たく……遊佐に言うんじゃなかった。
スマホを乱暴に机に置き、「お前さ……」と溜息吐きながら頭を抱える。
「なんで、全部、話をそっちに持って行きたがるんだよ」
「そっちって……?」
「訊かなくても分かってるだろ」
ギロリと睨め付けると、
「そりゃあ、付き合いだしたと聞いたら、一番気になるところはそこだからな」と遊佐はケロリとして答える。「初デートはどこに行って、帆波たんがどんな服を着て来て、どれだけ可愛いかったか、とか……そんな惚気話を聞いても、妬ましくて胃がねじ切れそうになるだけだ。そんなことより、どこでどんなふうにヤったか、という純然たるエロ話を聞きたい」
「最低だな」
その潔さは尊敬に値するが……と、呆れて苦笑を零しながら、ふいにハッとする。
初デート――か。
そういえば……今まで、いつも俺ん家で会ってて、帆波と二人きりで出かけたりしたことは無かったな。そりゃ、小さい頃は一緒に公園で遊んだり、動物園とか海とか、家族ぐるみで出かけたりもしてたけど……いつからか、ぱったりとそういうこともなくなって、たまに帆波がウチに来てはダラダラとリビングで過ごすだけになっていた。それでも、帆波と会えるだけで――帆波の傍に居られるだけでいいと思えたし、兄貴に会いに来ているんだと勘違いし始めてからは、それだけで満足しなければ、と自分に言い聞かせてきた。
でも、もういいのか。そんな遠慮はしなくていいのか。付き合い始めたんだから、そういう……家で会うだけの関係じゃなくていいんだよな。もう帆波を待つだけの立場じゃなくなったんだ。堂々と帆波を誘っていいんだ。デート、てやつに……。
初デートはどこに行って、帆波たんがどんな服を着て来て、どれだけ可愛いかったか――ただの戯言のはずの、そんな遊佐の言葉がふと脳裏に蘇って、つい、口元が緩んだ。
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