第78話 彼が作り、そして守った命

 ゆうが心の折れたシャバトマの前でダバオギトと話していると、荒野にバスケットボール程の光の球が現れた。

 球の中央は暗く、中には星の様な煌めきが渦を巻いている。


「なんだコレ?」

“上位者だ……私も会うのは数千万年ぶりだよ”

“んんッ、聞こえる?”


“はい、大丈夫です”

“ごめんね。いや、こんな感じで会話をするの久しぶりでさぁ”

「なんかイメージしてたのと全然違うんですけどぉ……」

“悠君!?”


 思わず口に出してしまった悠に、心の中のダバオギトが酷く慌てている。


“あれ、駄目だった? おかしいな。僕たちのコミュニケーション手段だと、情報量が多すぎて君、壊れちゃうから記憶を覗いて喋り方をコピーしたんだけど”

「ああ、それで……」


“まぁ、喋り方は気にしないでよ”

「はぁ」


“えーと。この度は僕等の不始末の所為で大変ご迷惑をお掛けしました”

「あっ、いえ、ご丁寧にどうも、あの……お気になさらないで下さい」


 相手の調子に合わせなんだか社交辞令的な受け答えをしてしまった。

 そんな感じで悠が答えると光の球はフルフルと震えた。

 どうも笑っているらしい。


“いやー、彼の事は何とかしようとしてたんだけど、僕等が介入すると銀河一つぐらい簡単に潰れちゃうから……それに彼、かくれちゃったからさぁ……虱潰しってわけにもいかないし、困ってたんだよね”

「はぁ、そうなんですか」

“そうなんだよ。ほら、顕微鏡で覗いた微生物とか突こうとしても難しいでしょ?”


 悠はいつか学校で見たミドリムシの事を思い出した。

 確かにアレを針かなんかで突けと言われても上手くやれる自信は無い。


“そういう訳なんで今回は手を貸してくれて助かったよ。ありがとね”

「はぁ……」

“お役に立てた様で何よりです”


“うん。ダバオギト、君の管轄にも随分迷惑を掛けたみたいだし、何かお詫びをしないとね……そうだ、君の思い出の星を再生してあげようか?”


“再生!? 出来るのですか!?”


 悠の中のダバオギトの心が驚きと歓喜に満ちる。


“うん記録は残ってるから……でも今ある星とかの一帯は無くなっちゃうけど……いい?”

「今ある星って……風花や坂野がいる星ですか!?」

“そう。バランスがあってね。再生には同じ座標じゃないと駄目なんだ”


 ダバオギトの苦悩が悠の心に流れ込む。


 愛した人が平穏な一生を送るのは見守りたい。

 だが、彼女は他者の犠牲の上に生きる事は望まない人だった。

 勿論、復活させても星が一つ無くなった事を彼女が知る事は無いだろう。


 だが……。


“……いえ、今のままで結構です”

“そう? いいの? レミアルナに協力してもらってまで復活させようとしたんでしょ?”

“知っていたのですか……ハハッ、当然ですよね……いいのです。私一人の願いの為に彼らの生を奪う事は出来ません”

“……分かった。君には何か別のお詫びを考えておくよ”


「ダバオギト……」

“何だいユウ君、私の事は一生事務員じゃ無かったのかい?”

「あう……聞こえてたのか……」


 狼狽えた感情が伝わりダバオギトが笑っているのが悠には分かった。

 その中に二度と会えない人への想いも乗せて。


“川口悠君、君にも感謝を。君のおかげで新たな創造者が多く生まれそうだ。……うん、レミアルナにならって僕等からも祝福を送ろう。君の心が自由に羽ばたけるように願いと感謝を込めて……”


 以前、レミアルナから祝福を受けた時と同様、暖かい物が悠の中に流れ込む。


“上位者の祝福……”


 絶句しているダバオギトに悠は心の中で問いかける。


“ねぇ、それって凄いの?”

“君ねぇ……”


 言葉と同時に呆れや無知と敬意の無さをたしなめる様な感情が伝わってきた。

 どうやら結構な物を貰ったようだ。


“さて、では僕たちはそろそろ帰るとするよ……ダバオギト、これから君が作る星の物語、期待してるよ”


 球体は収縮しそれと同時にシャバトマを吸い込んで荒野から消えた。


「消えちゃった……シャバトマはどうなるの?」

“さて、彼らの考えている事は計り知れない事が多いから”

「そうなんだ?」


“そうさ、創造者を選出したとはいえ、私の種族もまだまだ発展途上だからね……じゃあ私達も帰ろうか?”

「……ねぇ、風花に会いに行かない?」

“会ってどうするんだ。彼女は私の愛した人じゃ無い”


 魂の相乗りは悠にダバオギトの想い人の姿も伝えていた。

 それは現在悠達が間借りしている黒田の友人、吉野風花にとても良く似ていた。

 ダバオギトがあの星を時間凍結したのは、彼女の近くで坂野が暴走したのを見てしまったからだ。

 彼女が黒い霧に喰われ爛れれていくのはダバオギトには耐えられなかった。


「それでもだよ。君が作って……君が守った命だろ……」

“悠君……しかし……”

「意地を張るな。僕等繋がってるんだよ……君の気持ちは全部まるっと隅から隅までお見通しだ!」


“フフッ、面白そうなドラマだね、それ……分かった、会ってどうなる物でも無いけど行ってみようか?”

「そう来なくっちゃ!」


 悠とダバオギトを乗せた黒田の肉体は、風花のいる地球に似た星へと虚空を飛んだ。

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