第24話 勇者で魔王の先生と商人で殺人鬼の先生
「あのうこれはどういう事でしょうか」
その冷酷なハンターの眼をした勇者と魔王の末裔であるナナニアが死の宣告をするようにただ呟いた。
「えと、弟子だ。お前の弟子でもあるぞ」
「てかどうしたいのよ、10歳の双子の男女をどうやって育てるのよ」
「いや育てるんじゃなくて修行させる。俺様は商人として殺人鬼として、お前は勇者として魔王として」
「まず、その教育が成功したらその子たちは驚異的な化け物よ、なぜって商人で殺人鬼で勇者で魔王てか、無敵じゃん」
「「ぜひ教えてください、雌ゴリラ」」
「うんうん、今とんでもない発言を耳にしたわよ、何、ひっそりと逃げようとしてんのよレイガス」
「いや、君は耳が遠いいんだよ、メゴと言ったんだよきっと」
「まずメゴという単語を知りたいわね、では君達お姉さんの事を何て呼びましたか」
「「め、雌ゴリラとレイガス様が言っていました」」
「こんんおおおお、お仕置きだああああ」
「ぎゃあああああ」
レイガスは宿屋中から開け放たれた窓か墜落したように見せて、なんとか窓の淵を掴んでいる。
「まったく、そこにいんのは分かってんのよ、こっちが色々と貴族共の相手をしている間に、なに子供を保護しちゃってんのさ」
「なんかほっとけなくてさ、俺様を見ているようだったぜ」
「はぁ、分かりましたよ、ラファルとルンリンは何になりたい?」
2人はこくんと頷いて。
「僕は強くなりたい、大勢の人たちを守れるくらい、殺された両親を守れるくらい」
「私は強い力を使って悪い奴らを懲らしめたい」
「なるほどね、まだ進路は決まっていないと、それならあたし達が教育してやる、修行をしつつ仕事を手伝いな」
「「は、はい、雌ゴリラ」」
「だから雌ゴリラじゃなくて、ナナニア・ラッセルよ覚えておくように」
「「は、はい、ナナニ……雌ゴリラ」」
「なぜに言い直したのよん」
ナナニアは殴り合いで負けた戦士のように地面に両手をついている。
双子はきゃっきゃと言いながら走っていた。
まぁ宿屋の部屋の中なのだけど。
「では、ルンリンちゃんはお預かりしますので、隣の部屋にいってます」
「ああ、そうしてくれ」
ルンリンちゃんは走り疲れたのか、ナナニアにおんぶさせられて運ばれていった。
ラフォル君はさほど疲れていないのかじっとこちらを見ていた。
「師匠はなんで殺人鬼になったんですか」
「あえて、商人ではなく殺人鬼か」
「はい」
「まぁ世の中には思い通りにいかなくて、悪い奴らが正義の仮面をかぶっている場所があるとする。正義の仮面をかぶった奴が正しいと思い、悪い事を見逃すしかない人々がいるとする。彼らは正義を信じ利用される。そんな奴らからの洗脳を解くために俺様は殺人鬼になった。大勢の人々から嫌われようとも俺様は正義を全うする」
「それが師匠の正義の在り方なのですね」
「まぁ俺様もこれと言った大きな目印がある訳ではないさ、今は商人でがんばっているしラルガルシア王国とテネトス国を繋げる仕事もしないといけない、明日から色々と忙しくなるから離れるなよ」
「了解しました」
俺様はその後ゆっくりとベッドの中に入って目をつぶった。
もう1つのベッドにはラフォルが寝ていたはずだが、そこには気配はなかった。
ラファルの気配は俺様の背中の後ろだった。
ゆっくりと寝息を立てている事が分かる。
本当に寂しかったんだなと思った。
俺様もこんなガキの頃にくそ爺のドワーフに世話になったんだよな。
俺様の心が何かに縛り付けられるように痛かった。
苦しくて泣き叫んで助けてと言いたかった。
ジジイが助けてくれた。
そしてこの子達は俺様が助けた。
助けただけではダメな事をよーく知っている。
俺様とナナニアで双子を導かなければならない。
そうして深い眠りに入った。
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3日後
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現在俺様とナナニアと双子はラルガルシア王国にやってきている。
最初双子は初めて来る外国にはしゃいでいた。
現在、農家の長や周りの農家と相談していた。
なぜならたった数日で植えた作物が実ったからだ。
雑草の甘い液体もどうするか決めなくてはいけなかった。
と言う事で、新しく建てた【農業のお店】と言う所に作物が集まっている。
急成長を遂げた雑草の甘い液体は沢山瓶詰にされている。名前はグリーンジュースと言う事になった。
パンに塗ればはちみつの代わりになる。
後は、小麦と大麦とトウキビとイモ類とキャベツやレタスが尋常ではない成長を遂げた。普通の作物より3倍くらいの大きさとなっているので、巨人族が食べるのかと思うほどだ。
果物の木々はもはや世界樹かというくらいの巨木になり、林檎と葡萄はありえない数が実った。
相談の結果、ブドウと大麦でお酒を造る事になった。
「と言う所までは決まっておるのじゃがのう、お、すまないね嬢ちゃん」
「いえ、単なるお茶ですから」
ルンリンが【農業のお店】にある茶葉を使ってお茶を作ってくれた。
これはルンリンが小さい頃に母親に教わった事らしい。
「それにしてもこの小麦の粒がありえないですね」
「だろう、成長スピードもめちゃくちゃ速かったし、これだと肥料がある畑では数日で作物が実ると覚えておいた方がいいかもしれんのう」
「そうですよね、小麦とトウキビはパン屋などに卸して、余ったら【農業のお店】で売り出せばよいでしょう」
「うむ、そうしよう、イモ類とキャベツやレタスは一般市民から人気が高いから【農業のお店】でよいと思うのじゃが、さすがにさばききれんぞ」
「安心してください、元テネトス国に交易品として送ります、あちらからは珍しいお酒が届くことでしょう」
「ほう、それはとても嬉しい事じゃないか、わしはお酒が大好きでな、酒には眼がないんじゃ」
「あとは米ですが、凄い量ですね」
「それはわしも思った」
「食べ方も教わった事だし、まずはこの国で定着させてから交易させようと思う」
「それでいいじゃろう、あれはうますぎるな」
「それは良かった。では最後の問題です甘い液体のグリーンジュースですが」
「うむ、あれはそう簡単には腐らないぞ、それに瓶に保管しておけば長時間の保管も可能だ。まだまだ在庫が増えるから、1ゴードで1瓶でも儲かるぞ」
「それで、いきましょう、出来るだけ貧しい人達に当たるようにしてください、これらも交易の品に出します。甘い液体には栄養がぎっしりと詰まっているでしょうから」
「それにしても驚きだよな、雑草が肥料でおかしく成長しちまって、その副作用で甘い液体なんて出すんだもんな」
「それは俺様も同意見です」
「お茶のお替りです」
「わりーね嬢ちゃん」
「作物の問題は農家の長さんに任せますね、基本方針は俺様と話した通りと言う事で、他の農家さん達にも伝えてください、俺様は別の用事がありますので」
「うむ、こっちは任せてくれ、嬢ちゃん暖かいお茶をありがとうな」
「いえ、全然です」
俺様とルンリンは冒険者ギルドマスターに向かっていた。
「あのご老人はとてもやさしい方ですね」
「だな、農家の長さんはとてもやさしいがとても厳しい人でもあるからな」
「まったく想像が出来ませんね」
「だな、次は冒険者ギルドに向かう。冒険者ギルドは初めてか?」
「初めてです。師匠」
「なら勉強になるかもしれんな」
俺様は冒険者ギルドの入り口から入るのではなく、裏口に到着していた。
「師匠、この先は何もないですが」
「いや、こっちにはちゃんと扉があるんだよ」
俺様が軽くノックすると、しばらくしてから扉が開かれた。
ルンリンは小さな声で驚きの声をもらす。
「これはこれは、優しそうなお嬢さんですね」
「俺様だ。彼女は受付嬢のテニーだ。ラガストギルドマスターに会いに来た」
「ではこちらへ」
案内された先では目の前で爆睡しているラガストがいた。
机に突っ伏しており、周りは書類の山となっている。
「ラガストギルドマスター、レイガスさんが参りました」
「ふぉむまうむうむ、ぐーーーー」
「ラガストギルドマスターふざけてると殺しますよ」
「か、かんべん、お、ナナニアよとても小さくなったな」
「その子はナナニアではなくルンリンで新しい弟子です」
「そうか、そういう事か、これはこれは、レイガスじゃないか、君がラルガルシア王国に戻っている事は知っていたのだが、急がしてく会いに行けなくてな、申し訳ない」
「気にしてませんよ、用件は手紙で書いた通りです」
「うむ、お酒だな、なぜラルガルシア王国の特産品にするのではなくテネトス国で特産品にしたのだ」
「実はテネトス国には多種多様の果物の木々があります。果物1つで果物の酒が造れます。俺様の知らない果物もありました。それを組み合わせる事で最強のお酒が出来るとふんだのです。ですからビールとウイスキーとカクテルとノンアルコールの情報を提供しました。あちらはあちらでお酒が進化していくとふんでです」
「ふむ、そういう考えがあるなら納得だろう。例の件はびっくりしたよ、本当に5歳児の破壊神がいるのだな、創造神と祝福神はライガスト様がお仕置きしてしまったみたいだしな、それ以前にゴッドスレイヤーのライガスト様の弟子とはなおまえが」
「あまり聞かれなかったから教えなかっただけだ」
「まぁそういう事にしておこう、これからお前達はどうするんだ。色々と役割を終えただろう。この国とテネトス国は必ずつながる。そうさせる。うまい具合に交易品が絡みあってくれるだろう、お前はどこに行くんだ商人で殺人鬼の男よ」
「俺様はどこにいようと商人で殺人鬼だ。商人は新しい道つまり交易の道を開く事が出来る。やる事は決まっている。新しい国に行くまでだ。しばらく会えないかもしれんが永遠の別れではないさ」
「それでナナニアはどうした」
「あいつなら、闘技場で弟子に修行させてるさ」
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