第17話 さて、商売のはぁじまりぃだぁ
俺様とナナニアは2人だけでテネトス国の現状を調べようと物見をしていた。
国王は護衛を付けるとうるさかったが、断じて断った。
民衆は皆やつれていた。
貴族みたいな人達はにこやかに歩いている。
民衆はお店に入る事も出来ない、入り口には見張りのような兵士が立っているからだ。
露店ですら規制されており、貴族派の兵士達が見張りをしている。
一般の民衆が露店市場に入れないように規制されているからだ。
貴族達の若者は今にも餓死してしまいそうな民衆を見てげらげらと笑っていた。
さすがに俺様の脳天がぶちぎれそうになったが、心を平常心にしていた。
「ナナニア、おそらく、ここで食料を売るだけではいけない、彼らの顔色などから察するに病気の症状が出ている。あれは普通の病気ではなく栄養失調から来てるから、栄養も整える必要がある。回復ポーションSSSではだめだ。これを使う」
「うん、なんとなく民衆の顔色が真っ青になってるから、栄養失調だろうなって」
「そうだ。ドバドバンデーを使う。これは小瓶に含まれる栄養剤だ。男性も女性も飲むと元気になるそうだ。色々とこのコンタクトレンズは便利だな」
「へぇ、ドバドバンデーなんて聞いたことないわ」
「仕方ないだろう、異世界の栄養剤なのだから」
俺様は大体のこの国の現状と地理的なポジションを調べつくした。
時折貴族達が不思議そうにこちらを見ているが、俺様は気にしないで調べつくした。
そこはどうやらスラム街と呼ばれる地区だったようだ。
そこだともっとひどくて、1人また1人と通路に横たわっている。
顔は真っ青だ。
彼等は確実に栄養失調だ。
このままいけば力尽きるのは時間の問題だ。
あの天然王様が危惧していた理由も理解出来た。
どうやらこの国がまともじゃないのは王様だけではなく貴族もそうだろう。
王様は民の事を考えているが、貴族はこれっぽっちも考えていない。
それは貴族の少年少女を見ても納得のできる結論であった。
彼らは倒れている民を蹴り飛ばしたりして遊んでいる。
ナナニアが怒りで爆発しそうになっているのを俺様はにこやかに静止する。
「そろそろ、この辺りでいいな、俺様は今から商売を始める。歩く商店だ。車輪付き屋台を使って商売をする。車輪付き屋台はテレフォンブックから購入する。ナナニアがやるのはいちゃもんつけてくる貴族たちをぼこぼこにしてくれ」
「いいわね、それ、とても気持ちのよさそうな事じゃないの」
「奇遇だな、ナナニア、それは俺様も同意見だ」
しばらくの沈黙の後、突然道なりに大き目の車輪付き屋台が出現する。
テレフォンブックで異世界から購入した代物であった。
そこに沢山のドバドバンデーを積み上げていく。
後は俺様がそれを引っ張るのみ。
「今ならただだよ、栄養が必要な人だけにドバドバンデーを授けるよおおお」
すると大勢のテネトス国の民が走ってやってくる。
1人また1人と小さな瓶を受け取っていくと、彼らは涙を流しながら液体を口の中に流し込んでいた。
「う、うまい、力が漲りそうだ。ふぉおおおおおおおおおおおおおお」
「うそだろ、体が張り裂けそうな程むきむきにいいいいい」
「ふぉおおおおおおおおおおおお」
「ふぉおおおおおおおおおおおおお」
「ふぉおおおおおおおおおおおおおおおおお」
「だまれええええ、貴族の許可なく品物を売るとは何事か」
俺様の周りには大勢の民衆がいる。
彼等はふぉおおおとか言いながら何かに覚醒している。
さらにその周りを貴族達が10名程囲んでいる。
俺様はにかりと微笑んで見せた。
「いつから商売に貴族の許可が必要なのですかな?」
「知らぬのか、この国は貴族が支配しているのだ。貴族が王だ」
「ならお聞きしますが、貴族の代表は決まりですか」
「いま、会議を開いている所だ」
「商売を強行したらどうなりますか」
「そうだな、力づくで商品を奪って、お主を奴隷にしようかな、そこの娘もかわいいから、色々としつけが必要だ」
「そうですか、ナナニア、やっておしまいなさい」
「もう、最初からそうしてくれればいいのに、めんどくさいわね」
「ほう、お嬢さんがお相手ですか、この貴族、ただの貴族ではない、剣術を極めし者なり、いいですか、背後を取られたら終わりですぞ」
「あら、あなたの背後がらあきよ」
「な、にいいいい、がふぅうううう」
ナナニアは剣を使わず、拳で貴族を吹き飛ばした。
地面を盛大に転がっていく貴族1名。
しかも岩で作られた建物の壁に激突すると、建物が崩れて壁の生き埋めになった。
「死んだな」
俺は心の中で祈りをささげてあげたのであった。
「こ、こいつ刃向うのか」
「娘1人くらいやっちまえ」
「裸にして遊ぼうぜ」
「ぎゃはははは、あんな美人はいねーぞ」
1分後。
「や、やめてくれ、もう刃向かいません姉さん」
「む、娘ではありません、あなたは女神様です。お、おやめください、顔面を殴るのは、歯が、ぜんぶ、ぬけてもうたがな」
「お、俺が裸になります、だから遊んでください」
「ぎゃあああああ、あんたは美人だぜ、ぎゃああああ」
貴族達はほぼ全員フルボッコ状態になった。
数十名の貴族達は現在正座させられて、ナナニアに許しを乞うている。
あと生き埋めになった1名だが心優しいナナニアが救い出して、袋叩きにしていた。
こえーよ。
「いい、あんたら貴族なら民を助ける貴族になりなさい」
【はい、アネサン】
「あんたらの親玉ってだれよ、教えないと殺すわよ」
【はい、あそこの建物で会議を開いてます】
「よろしい、あんたらはこの瓶を一人でも多くの民に届ける事、もし餓死者が出たら、あんたら分かるわね?」
【ひ、ひいいいいいいい、了解しました】
移動露店は即座に終了を迎えた。
先ほどのふぉおおおおお化した民衆も集めて、1人でも多くドバドバンデーを配らせる作戦に出た。
資金は有限だが、ほぼ無限だ。
ドバドバンデーも無限に購入できる。
まぁ購入し続けたら資金が尽きるだけだが。
大勢の民が民を動かしている。
若い貴族達がナナニアに殺されたくなく動いている。
この国は今生き返ろうとしている。
たかが商人1人と用心棒1人によって。
俺様が向かったのは、貴族のリーダーが開いている会議に乱入する事であった。
その扉を蹴とばしたのは俺様ではなくナナニアであった。
俺様はにこにこしながらジャンプして見せると、ピエロのように回転しながらの着地であった。
右足の障害があるのでうまく着地出来ず、不器用に着地してしまった。
俺様は周りを見回す。
そこには老人老婆ばかり、見るからに貴族ですと自己主張しそうな高そうな衣服。
両手には無数の指輪がつけられ、こちらを不思議そうに見ている。
「ふ、どうやら、ピエロの商人はこの国に来ていたようだ。あの謎の乗り物で大体は察知していたがな」
「なぜ俺様の事を知っている」
「魔族の老婆に教わったんだよ」
「ほうほう、あの超人ババアだな」
「わたくし達はこの国を貴族で支配したいのです。貴族でない民には高潔な血がない。死ぬべきです。それを邪魔するというなら」
「なら?」
「あなたを殺すまでです」
「あんた俺様がなぜ道化師でピエロという名前があるかわからねーのか」
「わかっています。殺人鬼ピエロ。あなたの事ですよね、わたくしたち貴族には高潔な血があるのです。その高潔な血は遥か古代の歴史において英雄となった人々の子孫です。そう高潔な血を昇華させるとこうなるのです」
その建物の中で会議を開いていた貴族達の幹部は総勢で15名は居たはずだ。
1人また1人と胸を掻きむしりだした。
彼らの頭には輪っかが出現した。
10名程体の細胞が崩壊していった。
「まぁ選ばれなかったのでしょう」
貴族のリーダーがそう囁く。
リーダーを含む貴族5名の体の形成がおかしくなってくる。
まるで神そのものの姿になっていく。
魔人とは違い、彼らは天使へと変貌していた。
「ふう、高潔な血に宿る記憶を呼び起こすことは難しい、かつての古代の英雄たちはもはや天界にいるだろう、彼らを呼び起こす事は出来ない。なら天使となった彼らの力を呼び起こす事ならできる。さてお前は英雄に勝てるのか? ピエロよ」
「あら、あたしの事を忘れてない? あたしはその英雄たちを遥かに超える勇者と魔王の末裔よ」
「なんと、お前の情報はなかった」
「なら、やっちまう? レイガス」
「たりめーだ。ぶちのめして、お前らの野望を打ち砕いてやる。高潔な血だけの世界にしたらてめーらだけだろうがよ」
「それが高潔な世界というものだ」
「そんな世界は何が楽しい」
「何を言うか、高潔な血筋に楽しいはいらない、誇りさえあれば十分なのだ」
「ならその誇りを道化師なりにあざ笑ってやるよ」
俺様はゆっくりと瞳を閉じる。
もう一人の自分に声をかけるように、寂しそうなその肩を温めてあげるように、手のひらを当てる。
入れかわるような既視感、記憶は変わらず、感情の起伏が変わり。
「ああ、ああああああ、ああああああああ、ぶっ殺してーぜよ」
「あんたピエロ・トッド・ニーアスね、敵は古代の英雄の力を宿した天使族よ舐めないでね」
「いいね、そういうの燃えるぜ、右足も動くし、よーしてめーら天使族なら空に帰還させてやるぜ、永遠に空に浮いてな」
かくして殺人鬼ピエロと勇者と魔王の末裔であるナナニア。
相手は5人の古代の英雄の力を受け継いだ天使族。
俺様は心の中で愉快に踊っていた。
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