異世界通販で再建国~ノンビリ・スローライフ~

MIZAWA

1章 始まりの商売

第1話 テレフォンブック

 俺様の名前はレイガス・トッド・ニーアス。

 レイガスが名前でトッド・ニーアスが家名だ。

 今年で31歳になり、未だに独身という悲しい状態で最近では独身だっていいだろうと開き直っている。結婚したってすぐに離婚するぞと周りの既婚者をそういう目で見ている。


 俺様はいつもぼろぼろの衣服を着こなしている。

 これは断じてお金がなくて服を買えないのではなく、ぼろぼろの衣服のほうが格好いいからだと思っている。


 俺様は今日もお客が1人も来ない露店を開いている。

 隣の露店には大勢のお客さんが来ているのに、なぜかこちらの露店には1人もお客さんが来ていない。


 お客様達からの軽蔑の視線で見られている事は知っている。

 俺様が販売している商品はお皿やコップ等といった家財道具であった。


 廃墟となった家に置かれっぱなしであった家財道具を格安で買い取り、露店で高くして売りさばくという商法であった。


「ったく、最近、道化師から商人に転職したけどうまくいかねーもんだなぁ、商売ってやつは」


 そう俺様は元々道化師であった。

 軽業師の如くちょこまかと動き、人々を笑わせるのが仕事だった。

 ある大技の時に高い所から落下して右足を負傷し、永遠に治らないと申告され、仕方なく夢であった商売を始めた。


「俺様は商人になる事が夢だったけど、これじゃあ、いつまでたっても売れない商人だぜ」


 俺様の独り言は誰にも届いていない、その日も露店を畳んで、帰宅しようとしていたら、不思議な老婆が開いている古書店を見つけた。

 魔法で屋台が動くシステムらしく、色々な国を巡ってきたのだろう。


「あんたや、そこのあんたや」

「は? 俺様ですか」


「そうじゃ、お主の運命が見えるぞおおおお」

「その手の勧誘はおやめください」


「違うわい、お主はこのまま死んでいくぞ、一生独身で童貞のままでな」

「そ、それだけは勘弁してください、女性と愛し合いたいのです」


「そうじゃろうそうじゃろう、そなたにタダでテレフォンブックを差し上げよう」

「金をとらない所がすげーな」


「しかし商売が成立したら取り立てにくるでな」

「ちゃっかりしてましたああああ」


「さて、この本を受け取れ、使い方は自分で調べろ」

「意外と優しくなかったああああ」


 老婆から受け取った1冊の本は両手にずっしりとくる重たい本であった。

 

「じゃあな老婆」

「そうじゃな若造」


 俺は老婆の所から立ち去り、自宅に戻った。

 自宅は川岸にあるぼろ小屋であった。

 ようはホームレスという奴だ。


 周りにはホームレス仲間がいるが、一言も話したことがない。

 サーカス団の宿営地を追い出されて、辿り着いたところがここなのだ。

 ぼろぼろの木材をつかって小屋を造る事はとても簡単な事であった。

 一番の苦痛は雨漏りだろうか、雨が大量に木材の隙間を通って侵入してくるので、眠るまでが大変だったりする。


「さぁてと、テレフォンブックを見るとしましょうか」


 俺はテレフォンブックを開いた。

 説明項目が目に入ってきた。


1本に載っているアイテムを買える

2本に吸いこませてアイテムを売れる

3お金は本に入れたり出したりする事が出来る

4金の単価はデータとする

5本は持ち主の魂と強制的に契約するので失くしても上げても戻って来る

6ここにあるアイテムリストは全ての世界で共通である


 俺様は本に載っているアイテム一覧を見て行く訳だが文章は読める。ティッシュとかトイレットペーパーとか洗剤とかトマトケチャップとか掃除機とかバリカンとかスタンガンとかチェーンソーとか斧とか色々と表示されている。


 つまりこれらを買う事が出来るのだろう、購入した代物がどうやってこちらにやってくるのかが謎ではあるが。


 本に吸いこませてアイテムを売れるってどういうことだろうか。

 試しに雑草を本に吸わせてみた。

 本当に吸い込まれて。


【鑑定中です】


 なんとテレフォンブックが語り掛けてきた。しかも俺様の脳味噌に響く音となっている。つまり俺様にしか聞こえない言葉らしい。


【0データです。雑草を戻しますか】

「あ、消してくれ」


【消去しました】

「すげーなおい」


 次に全財産である1万ゴードを本に吸いこませると。


【1万データを手に入れました。保管しますか取り出しますか】

「取り出してくれ」

【了解しました】

 

 すると本の中から1万ゴードが戻って来たではないか。

 俺様は驚愕の瞳でテレフォンブックを二度見していた。


 こちらの世界では単価ゴードだが、本では単価データとされるみたいだ。


 次にテレフォンブックは強制的に持ち主と契約するとあるが、最初の持ち主はあの老婆であるはずだ。そこの所が謎だが。試しに尋ねよう。


「契約者は?」

【レイガス・トッド・ニーアス様でございます】


「あ、もういいや」


 どうやら俺様が強制的に契約者として任命されていたようだ。

 最後に全ての世界で共通であるという事は、もしかしたらこの世界だけではなく、多種多様の異世界が存在しているのではないだろうか、俺様は冒険心に刺激されて異世界に行ってみたいと思ったりしているが、そう簡単ではない事を右足を負傷している事で知っていた。


 俺様は木材のぼろ小屋の中でテレフォンブックの内容を調べ尽くした。

 色々なアイテムがあり、使用方法は頭の中に声となって教えてくれる。

 ここに載っているアイテムリストはこの世界より遥かに技術が進歩しているのだと思う。


 なんとなくその世界には魔法という概念がないと思われた。

 なぜなら魔法のアイテムが無かったからだ。

 そのどれもが合理的であり技術的なのだ。


 電気とか電池とか訳の分からない代物もあったが、テレフォンブックが手とリ足取り教えてくれた。


 いつしか俺様の知恵はたかが数時間で異世界に通じるものとなっていた。


 俺様はサーカス団時代の時に手に入れていたアイテムを片端からテレフォンブックに売っていった。

 魔法の剣、鋼のナイフ、宝石、奇抜な衣装、ありとあらゆるアイテムを売りつくした。1万ゴードは念のために懐にしまって置き。

 

 テレフォンブックの残金は100万データになっていた。

 つまり100万ゴードという事だった。

 これは驚愕の数値である。一番高かったのが魔法の剣や宝石などだった。

 商店街でそれらを売ると買いたたかれて総額20万ゴードが限界になるはずであった。


 なので持ち続けていたという事もある。

 俺様は100万ゴードで何をしようかと考えた。

 するとあまりの興奮でずっとテレフォンブックを開きっぱなしにしていた。

 かくして太陽は地平線から登ってきて、辺りを照らし出した。

 ニワトリがコケコッコーという鳴き声を張り上げ、カラスが戦わせるように鳴き声をはりあげる。


 人々が起き上がる時間だ。


「俺様は今日、この日、生まれ変わったぞおおおお」


 1人の男が立ち上がった時であった。


「アイテムを購入しすぎて、持ちきれなかったらどうするんだ?」

【テレフォンブックに収納する事が出来ますが】

「なるほど、それだと助かるな」


 俺様が最初に大量購入したのはティッシュペーパーであった。


「ふふふ、日用品を制する者は金を制するぞ」


 ちなみに俺様もティッシュペーパーの使い方は知らなかった。

 テレフォンブックが手とリ足取り教えてくれたという訳だ。

 まずは5万データ分のティッシュペーパーを購入する事にした。

 残りは95万データとなり、5万データ分のティッシュペーパーは200枚入り1箱が5千個になった。

 

 それをテレフォンブックに収納するという事だ。


 俺様はるんるんと露店市場に到着すると、屋台を広げ始める。

 そこには厳重に保管されている家財道具たちがある。

 これもテレフォンにいれようか迷いつつも、誰も見ていない所を確認して、片端からテレフォンブックに売り飛ばす。

 総額200万データとなり、現在295万データとなっている。

 

 家財道具が置かれてあったスペースが突如として無くなり、そこには見た事もないカラフルなティッシュ箱が並べられている。


 次から次へと露店がオープンしていくのを見て、お客さん達も大勢やって来る。

 空は太陽が照りつくし、寝ていない事を忘れさせてくれるほどお客様が大勢来ていた。


「あんちゃん、これなんだい、こんなカラフルな箱は見た事がねーぜ」

「これはですね、箱の蓋をあけまして、この切り取り線の通りにやると綺麗に開きます。そんでもって中からティッシュと呼ばれる紙がでてくるので、これで鼻をかんだりする事が出来るんです」


「これは汚れを落とす時にも使えるものなんですか?」

「もちろんです。水に濡らして拭いてあげればほとんどの汚れは落ちます」


「あらまぁこれなら赤ちゃんの口の汚れも」


「兄さん、これかったぞ」

「わしもじゃ、わしの淡をからめられるかもしれんのう」


「こっちもくれ」

「は、はい」


「こっちもだ、そうだな100くれ」

「こっちもたのむ」

「はやくしてくれ、売れきれるぞ」



 もはやお客さんの大群で俺様はビビっていた。

 これだけ商売が繁盛した事なんて無かった。

 ティッシュペーパーの利便性もあるだろうが、最初がこれだけとなると、色々と恐ろしい事になりそうだ。


 まず大量にお金を稼いでも、取り立てにくるそうだしなあの老婆は。

 どれだけ取り立てる気だ。こうなる事を把握していたのだろうか。


 俺様はひとりでもんもんしていたのだ。


 その日箱ティッシュは全てが売り切れた。

 売上は50万ゴードとされ、データに変換して保管すると総額345万データとなった。


 俺様はぼろ小屋を撤去して、宿屋に住むようになった。

 宿屋は1万ゴードがあれば1か月は住んでもいいそうで、チップがてら5万ゴード上げたら。宿屋の女将さん達はそこでぶっ倒れた。


 さすがに俺様もびびったけど、女将さんは泣いて喜んでくれた。

 残額は340万データとなった。


 その時俺様は気付きもしなかった。

 このファグラス大陸きっての王国とされるラルガルシア王国が危機に瀕していたなんて、王様が変な石ばかりを集めまくって破綻というか破産する事になるなんて。


 しかも王様は大量のへんてこりんな石を持って国外逃亡をはかったなんて。

 こぢんまりとしてティッシュ箱が流行になっている間に、国は動いていた。


 そしてこの国から人がいなくなるのも時間の問題であった。


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