第47話 月は見えずとも(6)
伊織の前の席は、また数日空席になった。
念のため入院した美桜が戻ってくるまでは、残念ながらその席に他の誰かが座ることはない。
美桜が倒れるきっかけとなった転校生は、伊織の知らぬ間にすっかりクラスの人気者になっているようで、昼休みになると陸の前に行列ができていた。
「あれは……一体なにをしてるんだ?」
「なんだ、月島知らないのか? 占いだよ」
「占い?」
女子たちの行動に呆れた男子たちが、伊織のいない間になにが起きたのかを説明してくれた。
「なんでも、あの転校生占いが得意なんだとか。で、お前らがいない間にみんなの前で占ったわけ。そしたら、ズバズバ当たってるらしくて、次々と女子たちが群がってるわけよ。まぁ、中には男子もいるけど……ほんと、占いとか好きだよなー女子は」
確かに、よく見たら陸は女子の手のひらを見たり、何か紙に書かせているし、占われている女子なんて必死に聞いたことをメモしたり……
「まぁ、悪いやつじゃなさそうだし、別にいいんだけどさ。女子を取られたみたいでちょっとムカつくけど————それより、月島、お前知ってたか?」
「なにを?」
「なにをって、お前の彼女だよ! 吉沢さん!! 昔、テレビ出てたんだって?」
「……え」
「しかもなんつーの? 心霊系? 意外すぎてびっくりした。確かに、ちょっとなんていうか……古風な雰囲気だし、変わってるなーとは思ってたけど……幽霊見えるんだろ? すごくね?」
占いは信じていないようなのに、幽霊が見えるということには興味津々な男子たち。
伊織は美桜のそばにいて、何か心霊現象はなかったかなどと聞かれたが、それどころではなかった。
「お……おい、なんでそのこと……みんな知ってるんだ?」
「え? だって、あの転校生が言ってたぜ?」
「あぁ、それに俺もそう言われて、確かに昔テレビで見たことあるなって思い出したんだ————」
「あぁ、俺も。よく父さんと一緒に見てたなって……神の子ミオちゃん」
(あいつ……なんてことを————!!!)
美桜にとって、神の子であったあの当時は、思い出したくないことだ。
誰にも知られたくないことだ。
映像に自ら呪いをかけるほど、誰にも知られたくない過去だ。
それを、陸がクラス全員に話してしまった。
なんの関係のない、他人の口からその秘密が明かされてしまったことを、美桜が知ったらどう思うか……
伊織は女子の手相を見ている陸の胸ぐらを掴んで、睨みつける。
「い、伊織様!? どうなさったのですか!?」
「月島くん!?」
「月島!!?」
驚いた女子たちが悲鳴をあげる。
男子たちは止めようと駆け寄った。
誰もが、伊織が陸を殴ると思った。
だが————
「俺を占え。今すぐに」
伊織は陸にそう言った。
* * *
陸には関わるべきではない。
美桜に言われなくても、伊織は本能的にそう感じ取っていた。
とにかく、なんだかよくわからないけど、ムカつくのだ。
中性的な容姿も、関西人なのかなんなのかよくわからない方言……海外で育ったというのもなんだか嘘くさい。
それに、占いが得意だとか……
「うん、なるほど……」
伊織は陸に言われた通りに渡された紙に名前と生年月日、血液型を書いた。
(どうせ、占いも嘘に決まってる。何もかも嘘くさい……俺にはわかる)
日頃、王子様キャラを演じてキラッキラの作り笑顔をしている伊織には、演技か演技でないかくらいわかるのだ。
陸はニコニコと微笑みながら伊織の書いた紙を眺めているが、目の奥が笑っていない。
(作り笑顔に、違和感ありすぎの中途半端な関西弁……)
伊織には美桜が言った蟲の姿は見えないが、少しでもおかしな行動を見せたら殺虫剤でも撒いてしまいたいと思うくらい、この得体の知れない違和感が気持ち悪かった。
「手相もいいかな?」
「あぁ……もちろんだ」
陸は伊織が差し出した手のひらを見つめ、深くため息をつく。
「はぁ……これはアカン。月島くん、相性最悪やで……美桜ちゃんとは結ばれん運命やわ」
(な……なんだと!?)
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