第17話 呪われすぎの王子様(5)


(…………なんで私が、こんな目に…………)


 プルプル震えながら、美桜は一人でどこぞの大金持ちが開いたパーティーの会場にいた。

 シルバーのハイヒールに、ネイビーのワンピースを着させられて。


 これだけでもかなりの高額なのだが、長い黒髪をアップにしたことで見える耳にはシルバーにダイヤがいくつかついたイヤリングが。

 全身で軽く100万円は超えている。


 呪いの原因かもしれない紫の指輪の人の顔を、佳織がまったく思い出せないため、美桜と伊織は佳織と一緒にこのパーティーに参加することにしたのだ。

 だが、それはもう、全身100万円なんて当たり前のお嬢様やら御曹司やらが参加しているパーティーだ。

 そこに、超一般人の美桜をそのままの姿で連れて行くことなんてできないと、佳織が全身コーディネートさせた。


 そして、そのコーディネートした本人はというと、少し離れたところでいつも通りに振舞っている。

 ワインを片手に、言い寄ってくる御曹司やら資産家と談笑しながら。


 あまりに別世界すぎるのと、このパーティーにはもちろん知らない男がうようよいるわけで……


「ねぇ、お嬢さん、かわいいね……中学生? 小学生かな?」

「一人で退屈でしょ? よかったらお兄さん達と遊ばない?」


(嫌だ……!! 絶対に嫌だ!!)


 全然知らないおじさん達に目をつけられてしまった。


「けけけ結構です!!」


 佳織に近づいて来る男の様子を観察するはずが、なぜか鼻の下を伸ばしたおじさん達にナンパされている。


(ロリコンだ! 絶対ロリコンだ!!)


 男だってだけでも怖いし、気持ち悪いのに、確実にそういう狙いだろうな……とく感じだった。

 もちろん、お金持ちのボンボンか何かだから、立派なスーツをきているのだけど……


「いいじゃん? 別にさ、お兄さん達と楽しいことするだけなんだから……」

「ねぇ、ほら、ちょっとあっちの方でさ」

「いいい嫌ですってば……っ!」



 おじさん達はしつこいし、並んでいた料理が美味しくて声をかけられる前についついたくさん食べてしまったお腹も苦しい。

 伊織は会場に入った途端に、どこぞのお嬢様やらお姉様たちから囲まれてどこかへ行ってしまったし……

 これでは、紫の指輪の人が誰なのか、全然わからない。


(ううっ!! どこに行ったの!? 月島伊織……!! 私を放置するなんて……!!)


「えー? そんなこと言わずに、ほら……」


 おじさんの一人が、美桜の腕をつかもうと手を伸ばした。


「いやっ!! 触らないでっ!!!」


(気持ち悪い……気持ち悪い……!!! 怖い……っ)


 怖くて、気持ちが悪くて、ぎゅっと目を閉じる美桜。

 だが、おじさんの手は美桜に触れる前に止められる。


「俺の婚約者に何をするつもりですか?」


 伊織がものすごい力でおじさんの腕を掴んで止めたのだ。


「つ……月島——さん!?」

「すみません! 失礼いたしました!! あなたの婚約者様だったなんて……」


 おじさん達は伊織の顔を見て、逃げるように会場からいなくなった。

 高校生に身なりのしっかりしたおじさんが謝るというのはなんとも不思議な光景だが、伊織が月島家の長男である以上、よくあることだ。

 あの月島家を怒らせたら、おじさんたちは一気に露頭に迷うことになりかねないのだから。


「まったく、俺がちょっと目を離した好きに……あんなおっさん達に囲まれるなんて……」


 伊織は自分が注目されていることがわかっていて、わざと王子様スマイルを崩さないようにしながら美桜の手を取り、手の甲に口付けする。


 近くで様子を見ていた他の参加者からは、きゃーと悲鳴が上がる。

 女性陣からは羨望の声も。



「これでもう、お前に声をかけようなんて大それたことをする人はいな……————って、おい、まさか」

「うぷっ……」

「やめろ、ここでそれだけはやめろ!!!」


 明らかに吐きそうになっている美桜。

 しかし、ここで出してしまったら100万円以上する全身コーディネートが大変なことになる。

 美桜はぐっとこらえて、なんとか喉元まできていたのを引っ込めた。


「はぁ……危なかった…………ギリギリだった」

「やめろよ……怖いな」

「————あ」


 伊織がホッとしたのもつかの間————


「今度はなんだ?」


 美桜は佳織の方を指差した。



「紫のもやもや……!!」


 佳織のそばに、紫のもやもやをまとう男が一人。


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