侵略のビャクヤ
渡貫とゐち
第1話
自称――と言いながらも、自他ともに認める文句なしの美少女である。
彼女……ビャクヤは宇宙人だ。
青い惑星『地球』。
この星の侵略任務を言い渡された彼女は、足掛かりとしてとある高校へ転入した。
若くエネルギッシュであり、将来性がある地球人を支配できれば、侵略するための駒として使えるだろうと企んだ。
ビャクヤが生まれ育った惑星と同じく、地球も変わらず女性の美しさには弱いらしい。
ビャクヤの美しさは、地球でも通用することが分かった。
歩けばオスが振り返る。町へ出ればスカウトされ、写真を撮られたらSNSでバズる人気。
インフルエンサーとして活動ができるほどの影響も備えている。
グラビア(水着)デビューをすれば、その肢体は日本中の男子を釘付けにするほどの破壊力を持っていた。
同性が『嫉妬する』なんてレベルではなく、既に『憧れ』や『絶対に勝てない場所』にいるため、挑む気力さえ湧かないのだ。
それがビャクヤ――地球での名前は、
地球であっても変わらず、十七歳の少女である。
ビャクヤが転入した高校では、教室はおろか、学校全体が彼女に注目した。
メディアに露出したわけでもないのだが……、ファッション雑誌に一度、モデルとして載ったくらいである。
夏を先取りしたファッションで大胆に胸元を開けて――たったそれだけだが、多くの読者に強く印象を残していた。
注目されるのが胸ではなく顔であるくらいには、日本人離れ……ならぬ、地球人離れするほどには顔が整っている。
ひとりが騒げば一気に広がるように、SNSでは彼女の話題がバズっていた。知る人ぞ知る、ではなくなっているのだが、彼女自身がそれを知らなかった。
なんだか注目されているけれど、それはわたしが可愛いからよね、と、まさしくそうなのだが、しかし本人の想定以上に周りが魅了されている。
生徒だけでなく教師までもが、彼女に釘付けだった……。
写真映えする長い銀髪をなびかせながら、校舎を歩く姿は令和のお姫様であった――――
教室で自己紹介を終えて、指示された自席へ向かうビャクヤ。
「――よろしくね。隣の席の、えっと……」
「
「うん、よろしく、朝凪くん」
隣の席となったクラスメイトと仲良くしようと声をかける。最も近い席にいる彼を虜にさせ、勢いづけて全男子を駒としてしまおう、と企んだものの……しかし。
――朝凪ひの。同級生と比べて幼い顔立ち、座っていると分からないが、小柄だ。
優しそうな顔立ちだが返答に冷たい印象を抱くことも多く、普段からおとなしい彼は発言する機会もそう多くはないため、クラスでは浮きがちだった。
それでも、嫌われている、わけではなく……、輪に混ざれないわけでもないらしい。
良くも悪くも癖があり、独特なのだった。
「朝凪? ああ、優しいよね。困ってたら助けてくれるし」
「行事では率先して働いてくれるし、うちらを気遣ってくれるよ。たまに自腹で差し入れしてくれるんだよね……、今年のバレンタインではチョコを全員に配ってたかな……家族が作り過ぎちゃって、とか言ってたね。朝凪も手作りしたみたいだけど」
「あんまり喋らない男の子、だけど……喋りかけたら答えてくれるよ? いやあまあ当たり前じゃん、なんだけど。無感情ってわけじゃないし、うん、可愛い男の子って感じー?」
と、いうのはクラスメイトの女子からの評価だった。軒並み好意的である。
「みんなは朝凪くんのこと、好きなの?」
『いや全然』
好意的ではあるが恋愛的ではないようだ。
まあ、ビャクヤも気持ちは分かる。友人の距離感がちょうどいい気がする……。
男子にも聞いてみたが、答えはほぼ同じだった。
憎めない、放っておけない奴、とのこと。熱心に誘って遊ぶ相手ではない。
が、誘えばついてくるし、ゲームセンターで遊ぶとゲームが得意で強いし、カラオケに行けば歌が上手いしで割りとなんでもそつなくこなしている。
ただ、彼が自分から輪に加わろうとすることがほとんどないので、忘れられがちだ。
それを、彼自身があまり気にしていないきらいがある。
良くも悪くもひとりが好きなのだろう。
もちろん、彼には彼女……恋人もいない――はず。自分自身のことを発信しないから分からないが、過去、雑談の中でいないと言っていたからたぶんいないはずだ。
彼のことは、聞けば聞くほど、謎が深まっていく……。
ある日のこと。
「……朝凪くん」
「なに、白姫さん」
「それ、なにしてるの?」
「スマホゲームだけど……見る?」
椅子をずらして体を寄せ合い、彼の画面を眺める。
CMでよく見るゲームであり、興味が湧いたビャクヤも一緒にプレイすることにした。
距離が近いが、彼はなんとも思ってなさそうだ。
(……ちょっとくらいは意識してくれてもいいんじゃないの?)
わたし、絶世の美少女なんだけど。
と、ビャクヤが「じとー」と隣の彼を見る。
ビャクヤは、奥の手で、リボンを解き胸元をちらっと見せた。
同世代の中では大きい方だろう(かと言って大き過ぎず、下品にはならないちょうどよさがある)――美白肌の胸元が見えるも、彼はまったく、見向きもしなかった。
彼ではなく、周囲の男子たちがまとめて釘付けになっており……、恋人がいる男子生徒も目が離せない始末だ。
気づいた恋人が膝蹴りを彼氏に喰らわせているのを横目で見ながら……ビャクヤは「違う、あんたたちじゃないし!」と口の中で呟いた。
「……いっそのこと、全裸になってやろうかしら」
と、奥の手では飽き足らず、さらに奥を出そうとするビャクヤ。
……まあ、たとえしたところで、今の彼を見る限り「風邪引くよ、しまいな」としか言ってくれなさそうだ。
それはそれで注意ではあるので、興味0ではないのだろうけど。
「あー……あの、朝凪くん。今日は金曜日ね」
「うん。明日は土曜日だ」
「じゃあ、その次は日曜日――」
「そうだね」
「その日に、さ……一緒に映画へ行きませんか?」
教室内が、ざわ、っとした。白姫ビャクヤがデートに誘ったのだ。彼は、「いいよ」と言った。軽い返事だが……、彼からすれば重く捉えるものではない、ということか。
ビャクヤは手応えを感じたものの……しかし待て。誘われたらきてくれる、という彼の優しさを思い出し、まだ喜べない――。
つまり、ビャクヤの美貌が彼の中のオスを目覚めさせたわけではないのだ。
「いいけど、なんの映画を見るの?」
「え? えっと……」
調べてみると、色々と出てきた。
ビャクヤの目が止まったのは……公開したばかりのホラー映画だ。
「これっ」
「これか……いいよ、見に行こうか」
「あれれ? もしかして苦手なのかな?」
弱味を握った、と誇らしげなビャクヤが彼の頬をつんつん突く。
「……違うって。得意じゃないだけ」
それを苦手と言うのでは?
ともあれ、彼の苦手を見つけることができてビャクヤが嬉しく思う。
僅かだけど、彼に、近づいた気がして…………
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