八寸

【おでかけとちらし寿司】

 朝起きて『おはよう』のあいさつをするのは、ずいぶんと久しぶりのことだった。


 朝ごはんを人のために作ったのも久しぶり。

 今日の晩御飯はなに? なんて聞かれたのも久しぶり。

 なにが食べたい? そう聞くのも久しぶりだった。

 そして返ってきた答えに固まったのも久しぶりだった。



『ちらし寿司』



 それがリクエストだった。お、おう。ちらし寿司ね。

 なかなか渋いリクエストで。

 まぁ寿司よりはハードルが低いか。いや、むしろ高いか?

 どの程度本格的に作るかにもよる。

 そもそも、ちらし寿司っていろいろ種類があり過ぎるし。

 とにかく見た目はきれいに仕上げたいところ。


 と、そんな僕の胸中を知るはずもなく、期待に目を輝かせて見上げてくる。その様子からして、ちらし寿司には何やら思い入れがありそうだった。


 そういえば、ちらし寿司を作るなんて何年ぶりだろう?

 そもそも具材は何を入れてたんだっけ?

 刺身系の具材は大丈夫なのかな?

 これだけ頭を使う料理も珍しい。


 そうだ。それをいっぺんに解決する方法があった。


「よし、今日は一緒に買い物に行こうか!」

「…………!」


 ルナとは近所のスーパーにも一緒に行ってない。たまには、外で気分転換させるのも良いだろう。どうせなら、いつものスーパーとは違う場所で買い物をしようか。もちろん、食べ物だけじゃなく、彼女の欲しいものも買ってあげるとしよう。


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