お椀
【シチューと苦手料理】
今日のメニューはホワイトシチュー。
だが、ルナは珍しいことにスプーンにも手を付けず、その両手は膝の上に乗ったままだった。しかもなんだか泣きそうな顔をしてじっとシチューを見つめている。
これまで何度か一緒にご飯を食べてきて、一応は彼女の好みも把握していたつもりだった。特に今日は寒かったから、体の温まるものをと考えて用意したのだ。
(ということは……牛乳が苦手だったか)
なんだか微妙な空気が僕たちの間に流れている。
ボタンを掛け違えたような、しっくりこない違和感だ。
まぁ、大人になってもやっぱり苦手な食べ物はあるものだ。
だからこそ食べたくない気持ちもよくわかる。
「……僕もね、昔は牛乳が苦手だったんだ。ついでに言うと、パセリとグリンピースは今も苦手なんだよね」
その言葉に、ルナはキョトンとした顔で僕を見ていた。
「まぁ、苦手なものなんて誰にだってあるよ。無理する必要はないんだ。でもね、ちょっと食べてみるのはどうかな?」
苦手なものは口に入れたくないのもわかる。でも、同時に食べてみて欲しいという気持ちもある。人の味覚は食べたものによって変化していくものだからだ。昔は苦手だったものでも、食べた料理によって好物に変わることだってあるのだ。
知り合ったばかりなのに、ちょっと強引だったかな?
だけど、これをきっかけに、牛乳を使った料理が大好物になるかもしれない。
「牛乳が嫌いだった僕が、なんとか克服しようと開発してみたとっておきのレシピなんだ。味見だけでもしてごらんよ」
「…………」
ニッと笑ってそう言うと、覚悟を決めたのかルナは神妙な面持ちでうなずいた。
それから慎重に、おっかなびっくり、スプーンの先をシチューにひたした――。
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