問い玖
【苦い思い出の話】
夕暮れの迫る公園。
僕とマリアは並んでブランコに揺られていた。
都内だったら自由に行動しても良いという許可を得てはいるものの、参考人として警視庁から監視されているマリアにとっては息苦しいものだろう。僕と一緒にいる時間も許されてはいるが、どことなくぎこちない空気が流れるようになってしまった。
偽造パスポートで出国しようと試みた理由を問い質すべきか……当然そのままにしておくのは良くないとわかっていても、心のどこかで何も聞かない方が無難だという親馬鹿な思いも見え隠れしている。
さらには、いつか言わねばならない大事な話も控えていた。
キイキイとブランコの揺れる音に集中していた二人だったが、マリアの方から静かに口を開いた。
「フタヒロって、どんな子供だったの?」
「どんなって……まぁ、よく覚えてないかな。リア充ではなかったけど」
僕は「ハハハ」と乾いた笑いで誤魔化した。
リア充な子供時代ではなかったことは断言できる。
「私はね、昔の自分が好きじゃないの。今も思い出すとつらくなる時があるよ」
「僕も、いい思い出はないけどね」
「今だってフタヒロに話せないコト……話したくないコトもあるんだよ」
なんか思い詰めた様子でそんなことを話してくる。でも彼女は、けっこう小さいことでも悩む癖が前からあった。なんだそんなことか……というようなことでも。
「僕は今のマリアが好きだよ」
「でも、本当の私はフタヒロが思ってるような人じゃないかも……」
そう言って彼女はそっとため息をついた。
「ねぇ、フタヒロは私の昔の話を聞きたい? 聞きたくない?」
僕には彼女が抱えていた心の傷が見えていなかった。いや、今の幸せから背を向けたくない自分がそこに居て、見るべきものを見ようとしなかっただけなのかもしれない。でも、僕はそれでいいと思う。過去はもう流れ過ぎたものだから。
僕は迷っていた……それでもどちらかを選ばなければならなかった――。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます