問い玖

【苦い思い出の話】

 夕暮れの迫る公園。

 僕とマリアは並んでブランコに揺られていた。


 都内だったら自由に行動しても良いという許可を得てはいるものの、参考人として警視庁から監視されているマリアにとっては息苦しいものだろう。僕と一緒にいる時間も許されてはいるが、どことなくぎこちない空気が流れるようになってしまった。

 偽造パスポートで出国しようと試みた理由を問い質すべきか……当然そのままにしておくのは良くないとわかっていても、心のどこかで何も聞かない方が無難だという親馬鹿な思いも見え隠れしている。

 さらには、いつか言わねばならない大事な話も控えていた。


 キイキイとブランコの揺れる音に集中していた二人だったが、マリアの方から静かに口を開いた。


「フタヒロって、どんな子供だったの?」

「どんなって……まぁ、よく覚えてないかな。リア充ではなかったけど」


 僕は「ハハハ」と乾いた笑いで誤魔化した。

 リア充な子供時代ではなかったことは断言できる。


「私はね、昔の自分が好きじゃないの。今も思い出すとつらくなる時があるよ」

「僕も、いい思い出はないけどね」

「今だってフタヒロに話せないコト……話したくないコトもあるんだよ」


 なんか思い詰めた様子でそんなことを話してくる。でも彼女は、けっこう小さいことでも悩む癖が前からあった。なんだそんなことか……というようなことでも。


「僕は今のマリアが好きだよ」

「でも、本当の私はフタヒロが思ってるような人じゃないかも……」


 そう言って彼女はそっとため息をついた。


「ねぇ、フタヒロは私の昔の話を聞きたい? 聞きたくない?」


 僕には彼女が抱えていた心の傷が見えていなかった。いや、今の幸せから背を向けたくない自分がそこに居て、見るべきものを見ようとしなかっただけなのかもしれない。でも、僕はそれでいいと思う。過去はもう流れ過ぎたものだから。

 

 僕は迷っていた……それでもどちらかを選ばなければならなかった――。

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