Have a Thick Skin
僕はひとまず謝った。そして、先輩として
「特別な扱いをした覚えはないよ。自分で言うのもなんだけど、僕は八方美人なところがあるんだ。勘違いはしないでくれ」
「…………ひどい言い方ですね」
「すまん。僕には上手い言葉が思いつかないよ」
「うそっ。普段はもっと優しいのに……」
嘘だった。
本当のところは、
僕は戸惑っていた。
本当に、
「そんなことないよ……」
と、言葉が漏れてしまった。
それを
僕は追いかけることができなかった。
追いかけて、その手を掴んで「誤解だよ」と言えなかった。その勢いで
その日以来、僕と
後輩の模範であるかのように接し続けてくれた優奈ちゃんから、一度だけ告白めいたことを言われたことがあった。でも僕は、やんわりと「今まで通り、先輩と後輩の間柄でいよう」と断った。その時も、優奈ちゃんからは「
一年、二年と月日が過ぎ、
その数ヵ月後に、僕はジェーンとマリアに出会った――。
「……んぱい! 関川先輩!?」
「ん? あ、あぁ、すまない」
「また、何か
「あはは、参ったなぁ。違うよ。ちょっと例のことを考えてただけさ」
僕は残りのコーヒーを飲み干して、
「先輩を
「調査書類、欲しくないんですか? せっかく久しぶりに会ったんですから、もう少しお喋りしましょうよ」
「話すことなんか何もないぞ」
「私は話すことがいっぱいあるんですよ」
やっぱり上司にゴリ押しでお願いすればよかった。彼も人が悪い。
「それで? 話ってなんだい?」
「そうそう、頼まれていたマリアさんのことなんですけど……特に変なところはありませんでしたよ」
「そうか。それならそれで良かったよ。おかしな犯罪に手を出してるようだったら、僕まで捕まってしまうからね」
おかわりのコーヒーが運ばれてきたところで、
書類はマリアの身辺調査書だった。昔の調査内容は僕が担当していたので把握しているが、ここ最近の……マリアが前職を辞め、ホテルの料理人と別れ、新たにフィリピンの観光客向けの仕事に就いているあたりの細かな調査情報は、手にしておらず欲しかったのだ。
「仕事を辞めた後のビザが少し不透明だね」
「そこは、関川先輩が昔から気にかけていた人ですから」
「そうか。目黒さんも知っているんだね」
「当たり前です。っていうか、目黒さんの指示ですよ」
僕の上司だった目黒さんが、こうして直々に動いてくれているなら心配は無さそうだ。身辺調査書の他に入っていた数枚の写真を眺めながら、新たに運ばれてきたコーヒーを
「なぁ、この女……
「え? まさかぁ。んー、でも似てますね」
僕は問題の写真を
サングラスはしているが、ショートボブにカットされた黒髪に赤いメッシュの入った女は珍しい。服装も派手で、とても隠れて何かを探るという格好には見えない。何よりも、この女は僕の知っている……だけではない、外事二課の頃から捜査員の皆が目を光らせている対象者だった。
「関川先輩が言うんじゃ……間違いなさそうですね」
「まぁ、僕も退いてるから、大きなことは言えないけどさ」
「この写真だけ、改めて預かってもいいですか?」
「もちろんだ。また何かわかったら、すぐに教えてくれ」
「わかりました! 目黒さんにも伝えておきます」
「頼むよ。直接マリアにも僕が聞いてみるから」
「え? それって大丈夫ですか? もし、二人が関わっていたら、関川先輩……殺されちゃいますよ」
その可能性があった。僕は顔色を変えて「そんなことは無い」と言い切る自信が無かった。よくよく考えてみれば、マリアが僕の目の前に現れたタイミングも良すぎたのだ。何か目的があって僕を
静かに
「マリアさんがシロだと決まるまでは、おかしな行動はしないで下さいね」
「わかった。問題の無い子だと思っていたんだけどな」
「私も書類を渡すまでは昔から変わらない良い子だと思ってましたよ。しかし、よく見つけましたね、さすが関川先輩です!」
「素直に喜べないなぁ……」
「偶然かもしれないし、これから接触する可能性もあります。色々な方向から調べてみますので、彼女には何事も無かったように接してあげて下さいね」
「わかった」
「なんだか悪いね。ごちそうさま」
「いえいえ、この店へ来てもらうよう呼び出したのは私の方ですからね。ここだったら関川先輩も気に入ってもらえるだろうと思って」
「いやぁ、とても良い店だよ」
「それに、こうなってくると……まだ、私にも可能性が残ってそうですね! 彼氏を作らないでおいて良かったかも。ふふふ」
「は? 何を言って……」
「じゃっ! また連絡しますねー!」
結局、
僕は
別れ際に
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