第176話 理由

「薫…ありがとう…」


真紀は泣きながらそう言った。


「お母さん…ずっと私達を見ていてくれてたってほんと?」


透が


「薫…母さんな…肌身離さずお前の写真を持ち歩いてるよ…」


「そうなの?」


薫は真紀を見つめてそう言った。真紀は涙をハンカチで拭いて


「薫…あなたのことを考えない日なんてなかったの…」


そう言ってバッグから小さなアルバムを取り出した。そこに収められていたたくさんの写真…薫の産まれた時の赤ちゃんの写真から、七五三、入園式、遠足、入学式、過去の薫の写真が薫の成長と共に全て入っていた。その写真は、数えきれないほど手にとって見たのであろう、かなりくたびれていた。


「どうして?」


薫が質問した。


「どうしてこんなにたくさん…」


「薫…これは全部透が持ってきてくれたの…私も薫が幼稚園に入る時も、小学校に入学するときも中学入学する時も高校に入学する時も、全て薫の側に居たの…でも…」


そう言って言葉に詰まる。


「お母さん…」


透は薫の様子を見て安心した。完全に薫は母を受け入れている。薫には語り尽くせぬ想いがたくさんあるだろう…今日はこの後二人だけにして、母子の時間をゆっくり作ってやろうと考えていた。


透は可奈子を見てお互いうなずき合った。可奈子が


「薫、真紀、この後二人で出かけて来たら?…親子水入らずでゆっくり話して来たら良いんじゃない?」


真紀が可奈子と透を交互に見て頷いた。


「薫…いいかしら?私と二人きりでも…」


「お母さん…」


そう言って薫は頷いた。


「じゃ、透悪いけど…」


真紀はそう言って薫を抱き締めながら透と可奈子に目でありがとうと言って


「行こ?薫…」


二人は立ち上がり


「俺ん家でゆっくり話せよ。誰の目も気にすることなくゆっくり出来るから」


「そうね…そうさせてもらうわ…」


そして透は家に二人を送って


「俺さ、悪いんだけど今日友達と約束あるからこのまま帰って来ないわ…」


「兄ちゃん…」


もちろん二人は透の粋な計らいに感謝している。

透が出ていって


「お母さん…私、真実が知りたい…どうして私が小さかった頃、泣きながら謝ってたの?」


「薫…覚えてるの?」


「ううん…夢で見た。お母さんが泣きながら謝ってた…必ず迎えに来るからって…」


「薫…それはまだあなたが三才の時の記憶よ…」


そうだったんだ…私が三才の時にお母さんは居なくなったんだ…


「どうして…出ていかなくちゃ行けなかったの?」


「それは…薫…話す前に約束して…この話を聞いても…父ちゃんのことは恨まないで…」


「父ちゃん…父ちゃんが悪いの?」


真紀は静かに語り出した。


「父ちゃんね…若い頃とてもモテる人でね…女性の影が絶えないのは知ってたの…でも、薫を妊娠してるときにあの人は…」


そう言って寂しげな表情で遠くを見つめる。

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