第170話 薫の表情に安堵する二人

この日、理佳子と天斗がそれぞれ家に帰り風呂に浸かって一段落してから、天斗から理佳子に電話をかけた。


「もしもし?理佳子?」


「うん」


「今日は楽しかったな!」


「うん、凄く楽しかった!」


「重森だけど…」


「うん」


「あいつ凄く変わったよな?」


「そうだねぇ…小山内君のお母さんにあんなに懐くなんてちょっとビックリ!」


「だろ?俺のあいつのイメージは人見知りで、人とは深く関わりたがらない、冷めたイメージだったんだけどな…」


「うーん…薫はあの事件をキッカケに心を閉じちゃったんだよね…」


「そうなのか…」


「もともとあんまり活発な子じゃ無かったんだけど、大人に対してあんなに心を開くことは最初から無かったと思う…」


「なるほど…」


「きっと薫…母親の愛情に飢えてたから、小山内君のお母さんと凄く相性が合って居心地良いんだと思うの」


「確かに小山内の母さん元ヤンですって感じだもんな…」


「うん、それにあのお母さんの薫を見る目が、凄く優しかった。あのお母さんも薫を可愛く思ってるんだなぁ~って…」


「そうか…小山内がかおりの帰る場所だぞって言ってたのが解るわ」


「薫ね…口には出したことが無いけど、いつも淋しそうだった。私のお母さんも薫には凄く甘えさせてたんだけど…あんなに慕ってるって感じが無かったもん…きっと私のお母さんであって、自分のお母さんじゃないからって、どこか線を引いてたんだと思う…ずっと甘えられるお母さんが欲しかったんだよね…」


「なるほどね」


「ところでたかと君?この間の件…まだ何も聞いて無いけどどうなったの?ちゃんと約束は守ってくれた?」


「ん…んん…大丈夫だよ…ちゃんと俺達生きてる…」


やっぱりね…でも…今回のことはたかと君を止めても、多分薫が黙ってられなかったんだろうから…たかと君を責めるのはかわいそうだよね…


「たかと君…ありがとう…」


「え?あ…あぁ…」


天斗は拍子抜けした。てっきり理佳子から説教を喰らうと覚悟してたからだ。


「薫を止めてくれてありがとう…私…凄く心配だったの…薫のことは全部手に取るようにわかるから…解りすぎるからむしろ辛かった…でも、今日薫の表情見て安心したの…もう過去から卒業出来たんだって…」


「そうだな…確かにあの時思い止まったのがその答えだな…小山内が身を呈して重森を闇から救いだしたんだと思うよ…あいつの器は底が無いからな…」


「薫…幸せになれそうで良かった…ずっと心配してたもん…もう二度と人を好きになることは無いんじゃないかって…薫の過去は…色々と複雑だから…助けてあげたかった…」


「理佳子…」


理佳子は薫の母親が失踪したことは知っているが、その理由までは聞かされていない。当然矢崎拳が父親だとは知っているが、その人物の過去は全く知らない。それはまた、別の話…

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