第152話 薫を想う母達

「お母さん、ちょっと話があるんだけど…」


理佳子が母に薫のことを話す。


「それなら薫はしばらく家に連れてこようか。透には私から話すから」


理佳子の母、可奈子がそう言った。可奈子はずっと薫のことを不憫に思ってきた。可奈子は薫の母の姉である。幼い頃に母と別れその母親の愛情を知らずに育ってきた薫を、自分の子供のように理佳子と薫二人に分け隔てなく接してきたつもりでも、やはり薫にはどこか愛情不足なところを感じることが多かった。だからこそ、薫にしてやれることはどんなことでもしてきたつもりだった。


「わかった。たかと君にはそう伝えとくね!」


そう言ってすぐに理佳子は天斗に電話をかけ直す。


「もしもし、たかと君。お母さんが薫を家でしばらく預かるって言ってる。だから安心して」


「そうか!それなら助かる…今回のことはかなり危険が伴うみたいで、なんか重森の元カレのことが絡んでるとか…」


「た…たかと君…それは…たかと君も関わるのは止めてね…」


理佳子は急に不安に陥った。天斗が薫を庇って死んだ武田剛の二の舞になるのではと恐れたからだ…


「理佳子…何か知ってるのか?」


「うん…それは薫にとって人生を大きく変えた事件だったから…だから…私もたかと君が心配…」


「大丈夫だ!とにかく重森さえかくまってくれれば全て丸くおさまる!」


「うん…それなら良いけど…」


「理佳子、おばさんには宜しく言っといてくれよ?」


「うん、わかった。たかと君…約束して…この件は絶対…」


「あぁ、約束する!俺は死んでもお前を離さないよ!


「そうじゃ無くて…」


「わかってるって…心配するな!じゃあ宜しくな…」


「うん…」


電話を切った後も理佳子は妙な胸騒ぎがしてならない…たかと君…きっと約束守らないよね…



「あぁ~いい湯だった!」


小山内はわざと大きな声で風呂場から声を上げた。

薫が吟子からパッと離れて手で涙を拭う。

吟子も後ろを向いて涙と鼻水をティッシュで拭き取る。


「清、かおりんはこのまま家に拉致しちゃおうか!」


「おっ!いいね!」


「お母さん…」


薫には笑顔が戻っていた。


「かおりん可愛すぎるからさ…もう帰したくないよ…」


「母ちゃんよほどかおりん気に入ったみたいだな…」


「かおりんはもう私の娘さ!」


「お母さん…ありがとう…」


「清、ちょっとお酒買ってきてよ!久々に飲みたくなっちゃった!」


「母ちゃん、止めとけよ…医者に止められてるだろう…」


「良いから…今日は凄く気分がいいんだ!かおりんも一緒に飲む?」


「はい!付き合います!」


「おっ!良いねぇ…それでこそ私の娘だ!清、早く!」


「もう…母ちゃんは人使い荒いなぁ…」


そう言ってしぶしぶ一人で出ていった。


「かおりん…清のことを宜しく頼むよ…あいつバカだけどさ、心根は凄く優しいから…こんなこと親の私が言うことじゃ無いんだけどね…もし、かおりんに見捨てられたら…もうあいつの横にふさわしい女は現れないだろうさ…かおりん以外には、私も認められないしねぇ~」


そう言って吟子は笑った。


薫自身も、この家に嫁ぎたいとこの時心から思うのであった。


それが儚い幻だとわかっていながらも…

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