第150話 お母さん…

とりあえず重森ん家の前で帰ってくるの待つとするか…

天斗は薫のアパートに向かった。薫のアパートの前に2台のバイクが並んで置いてある。


「あっ!黒崎!」


薫の部屋の前で立っていた薫の中間がこちらに気づき寄ってきた。


「よぉ!重森ならまだ帰って来ないぜ」


「どこに行ったか知ってるのか?」


「心配するな、小山内と一緒に居る」


「あぁ、あの天然バカか…」


「薫さんに急ぎ伝えなきゃならないことがあるんだ!教えてくれ!」


「安藤のことだろ?それならもうとっくに重森の耳に入ってるよ」


「そうだったのか…あの人きっと無茶しそうだから…止めないと…」


「それももうやってる!死んだ武田剛が俺んとこに来て託していったからな…」


「は?武田剛?何でそれを…」


「薫を止めてくれって来たんだよ…」


薫の仲間達二人は顔を見合わせる。


「とりあえず小山内が上手くやるとは思うが、あんたらも監視して欲しい…かなり思い詰めた感じだったから、油断すると何しでかすかわからねぇ…一応俺の番号教えとくから、何かあったらすぐに連絡欲しい」


「わかった、宜しく頼むわ。姉さんの身に何かあったら絶対許さねぇからな!」


そう言って二人はバイクで行ってしまった。

その時天斗の携帯に着信…


「あっ、黒ちゃん…とりあえずかおりちゃんのことは心配要らないから…帰ってゆっくり休んでくれ!」


「そうか…わかった、んじゃ頼むわ」


んじゃ帰るか…天斗は自分の家に戻ろうとしたとき一台のバイクが砂利の駐車場に入ってきた。

バイクに乗っていた男が不審そうに俺を睨む。俺はそのままそこを立ち去った。


もしかしてあいつ…薫の彼氏か?

矢崎透は仕事からの帰りだった。アパートと道路の街灯が薄暗かったのでお互いハッキリとは顔を認識出来なかった。


今のは…誰だ?まさか安藤が単独で動いてるとは思えないし…



「さぁ、入って!」


小山内は薫を家に通した。


「母ちゃん、今日かおりん泊めるわ!」


玄関から大きな声でそう言った。そしてすぐにリビングから小山内の母、吟子が出てきた。


「あら、かおりん!いらっしゃい!どうしたの?そんなに目を腫らして…まさか…清…お前がかおりん泣かしたんじゃないでしょうね?」


「違うよ…ちょっと色々揉め事があってかおりんは今センチになってんだよ…」


「あらそうだったの、家で良かったらいつでもおいで!清から聞いたけどかおりんはお兄さんと二人で暮らしてるんでしょ?淋しくなったらここで休むと良いよ」


「お母さん…ありがとうございます。私…ここの家の娘になりたい…」


「あらあら、嬉しいこと言ってくれるね…とりあえずお風呂入りなよ!すぐ沸かし直すから」


「はい…」


風呂が沸くまで小山内の部屋で待っている。


「母ちゃんかおりんのことを凄く気に入ってるぞ!父ちゃんもいつお嫁に来るんだとか言ってさ…」


「清…私…ほんとにここの娘になりたいよ…お母さんのことを全然覚えて無くて…清のお母さんが私のお母さんだったらなって…」


「かおりん…だからそんなに淋しがり屋なんだね…」


薫は母の温もりを知らない。物心付いた時には既に父と兄の三人の生活だった。理佳子の母に色々面倒を見て貰ったことはあっても、母親というものがどういう存在かいまいちピンと来ないのだ。そしてその甘え方も知らない。小山内の母を通して薫は母親像を見ていた。

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