第98話 薫の元カレ武田剛

「何だよあいつ…助けてやったのにそりゃないだろ…」


そのとき通りかかったクラスメートの女子、山田法子(やまだのりこが)


「黒崎君って…優しいわりにけっこう鈍いんだね(笑)」


「あぁ?いやだって…いきなりあんなこと言われても…たまにアイツ変なんだよな…」


「フフ、そっかぁ…重森さんってそうだったんだぁ…」


意味ありげに山田はそう言った。


「そうだったって…どうだったんだよ?」


「自分で聞いてみたら?じゃあね」


そう言って行ってしまった。

どいつもこいつも訳がわからん…

実はこのとき一部始終を小山内は見ていた。


あのかおりちゃんの様子…もしかして…


小山内は薫を追いかけて学校の屋上に向かった。薫は屋上の手すりに腕をかけて顔を伏せていた。小山内はしばらくその様子を見ていたが、ゆっくりと歩きだして横に立ち、薫の肩を抱く。薫はその気配で小山内だと察し肩を震わせながら泣き出した。


「かおりちゃん…」


何と声をかけていいか分からずそのまま止まった…薫は伏したまま泣き続ける。


「かおりちゃん…俺…バカだからさ…難しいことはわからないし…女心ってのもよくわかんねーけどさ…何となくわかることが一つだけあるんだわ。それは…俺が…かおりちゃんの心の中には…居ないって…」


小山内はキュッと唇を噛みしめて続けた。


「かおりちゃんの中には…きっと別の誰かが…居るんだろ?でもさ、俺は…例えそうだとしても…例えかおりちゃんの中に俺が居ないとしても…それでいい…俺が…俺がかおりちゃんのことを好きな気持ちは変わらないから…どんだけ時間かかっても…俺を通して他の誰かを見ててもいい…それでも俺は…かおりちゃんのこと…想い続ける…だから…俺をかおりちゃんの心の逃げ場にしてくんねーかな?泣く時はいつも俺の腕の中で…って…ダメかな?」


「小山内………」


ありがとう…ありがとう小山内…


薫は堰を切ったように号泣してしまった。


回想シーン


遡ること一年と四ヶ月前…


「なぁ、天斗!アイツらやっぱ人数集めて攻めてくるぞ!」


これは薫の元カレ武田剛(たけだつよし)だった。本物黒崎天斗の右腕で、これは黒崎と小山内のような関係だった。


港の埠頭の倉庫に20人ほどがバイクを走らせここで集まっていた。いわばここが黒崎天斗のアジトと言える。


「フン、そんなもん何人集めてこようが関係ねぇよ…雑魚をどんだけ集めようが所詮雑魚でしかねーよ」


そこには矢崎薫の姿もあった。

薫は大きなレディースのチームの総長をつとめていて、黒崎天斗以上にこの名は広く知れ渡っていた。


「ねぇ剛…今回は何か凄く胸騒ぎがするの…お願い…気をつけて…」


「薫、心配すんなよ!俺は不死身の男だ!どんな怪我をしても不死鳥の如く甦ってくる、そう!フェニックスのように!」


「でも…ほんとに今回だけは心配なの…私、剛居ないと生きていけないよ?」


「わかってるさ、薫…お前を独りにはしやしないって!」

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