第96話 二人の秘密…のはずが

「かおりちゃん…どうして泣いてんだ?」


「………バカ!」


そこへ天斗、理佳子、清原が追ってきた。

薫は慌てて手で涙を拭った。


「きよちゃん!もう元に戻ったのか?」


「あ?そりゃ俺の身体は丈夫に出来てるからよ…あれくらい何ともねぇよ!」


「きよちゃんすっげえ!輪切りにされてもすぐに回復しちまうなんて、正に不死身な男だな!」


「小山内…それでエスカレーターから落ちてピンピンしてるみたいだけど…問題ないのか?」


俺が聞いた。


「まぁ、ちょっと首が痛くてな…ムチムチって診断された」


「ん…んー…それはむち打ちだな…」


そこで薫が


「何でエスカレーターから落ちたの?」


清原が割り込んできて


「それがさぁ…上りのエスカレーターで俺らの前に…」


ボコっ!


「うっ…痛って…何で殴っ…」


ボコっ!


清原がうずくまる。

小山内が清原を制止して


「あぁ~それは俺から話すから…」


薫が


「小山内…顔…真っ赤に腫れてるけど…しかも紅葉型に…」


「え?ほんと?何回転かして落ちたからそんな風にぶつけたのかなぁ?」


どんな苦し紛れな言い訳だよ…


「てか何でそんなにピンピンしてんのに救急車で運ばれたんだよ?」


俺が聞くと


「それがさぁ…きよちゃん落ちたとき気を失っちゃってピクリともしないから…完全に死んだと思ったんだよね…目だけは見開いてこっち見てたんだけど…」


俺はそのとき何故目を見開いていたのかわかったような気がする…こいつ…そんな状況になってまで…気になったのか?


「とにかく無事で良かったね!」


理佳子が空気を察して言った。


「みんな心配かけてごめんな…高谷と千葉の見舞いに行かなきゃな」


そう言って一同は高谷達の病室に見舞いに行った。

しかし薫は小山内の手を掴み人気のない所まで引っ張って行った。


「いい?…私が泣いてたなんて誰にも言わないでよ?それから…この前キスしちゃったことも誰にも言わないで…わかった?これは私と小山内だけの内緒にして!」


小山内はこないだ天斗に話してしまったことを思い出して動揺してる。


「う…うん、わ…わかった…絶対に…言わないよ…うん…言わない…誰にも…黒ちゃんにも絶対…言わない…」


薫は疑いの目で小山内を見る。

小山内は動揺して少し目が泳いでる。


わっかりやすっ…こいつ絶対嘘つけないタイプだわ…でも…そういうところがちょっと可愛いけど…

薫は少しずつ小山内のことを好きになりつつあった。


俺と理佳子が家に着いた頃には辺りはすっかり暗くなっていた。


「たかと君、おばさんに挨拶したら帰るね…」


「今日は小山内の件で悪かったな…ゆっくり出来なくて…」


「ううん…たかと君の大切なお友達だから…」


俺達は母さんの所へ行った。


「おばさん、今日はありがとうございました。遅くなっちゃったんで帰ります」


「ほんとはもっとゆっくりしていってって言いたいところだけどねぇ…家も遠いし引き止めるわけにはいかないもんねぇ…」


「おばさん、また来ますね…それじゃまた…」


母さんは目に涙を溜めながら手を降る。理佳子もニコッと笑いながら手を振る。

俺達は駅に向かって歩き出した。

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