第151話リターンEX4-悪役令嬢ツンデレラ物語
大公都まで目と鼻の先、その行軍途中の大休憩時に私はハバネロのテントを訪ねた。
……まあ、大体いつも突撃しているけど。
今回は1人ではなく、サビナもアルクも一緒だ。
ハバネロが詰んでる、詰んでると言うけれど、私は貴族の裏事情や政治の世界はサッパリだ。
どうしてそうなるのか、もう少し詳しく教えて欲しいとハバネロに頼んだのだ。
「そっか、お前たちは貴族ではないから、王国の貴族社会なんて知らないよな。
ましてやメラクルは大公国の人間だから余計にかもな」
困ったような苦笑いのハバネロの顔をした。
その顔を少し可愛いと思ってしまったと同時に、だからこそハバネロは私たちを頼れなかったのだと気付いてしまった。
政治の範疇であり、有能であってもサビナもアルクも使われる側の人間だ。
「そんな顔するな」
軽い笑みを浮かべ、ハバネロは私の頭の髪をぐしゃぐしゃにさせながら撫でる。
「うー……」
テント内には新しい酒瓶が置かれてある。
ハバネロは最近、ろくに寝つけていないようなのだ。
「人生の1/3を寝て過ごすって、なんだか無駄な気がしてきたんだ」
「ちょっと何言ってんのか分からない」
流石にそこは冷静にツッコんでおいた。
脳みそふやけてる?
こいつはいつも考え過ぎてるんじゃないかと私なんかは思う。
冗談だと軽く手を振り、ハバネロが物語に置き換えて説明してくれた。
悪役令嬢ツンデレラ物語、と。
……ハバネロ、頭大丈夫かなぁ?
内容はこうだ。
ある王国で王子が真実の愛を見つけたとか言って、婚約者である悪役令嬢ツンデレラとの婚約を貴族の集まる舞踏会で一方的に破棄するのだ。
王子が王のことで、ツンデレラがハバネロのこと。
……やっぱり、頭大丈夫かなぁ?
これだけだと逆に王子側が廃嫡及び処分される。
貴族社会は契約や結婚、血筋などの人の繋がりで成り立っている。
王子と言えど好き勝手を行えば、貴族の支持母体を失い引きづり下ろされる。
ハバネロは研究者の間では王国の制度を封建社会と呼ぶと言った。
王は貴族の代表みたいなもので、一族が継承していくけど、その土台は貴族が支えていてその貴族の土台を王が好き勝手に取り外そうとすれば土台が崩れる。
貴族に限った話ではないが、何か変化を起こす際に政治の世界で大切なのは根回しと正当性だ。
帝国との大戦時も戦争準備という根回しと、大義という正当性が用意された、それと同じだと。
王子は用意周到に、社交界に悪い噂が広げ、悪役令嬢ツンデレラに味方する貴族は居なくなりました。
さらにはツンデレラは王子の命令(軍規違反)を聞かず、いじめ(軍閥派を助けなかった)を行い、トドメに他の貴族を襲ったり(大公国接収)してしまったツンデレラ。
さらにさらに王子は悪役令嬢ツンデレラへの殺意いっぱい。
王子は他のほとんどの貴族に根回し済み。
王子は貴族たちにこう囁いたのです。
悪役令嬢ツンデレラは強いから怖いよね?
それにツンデレラを好き勝手させていると君たちも危ないよ?
皆で悪役令嬢をやっつけよう。
大丈夫、王子の僕が矢面に立ってあげるから。
そして、根回しと正当性が揃ってしまったのです。
貴族たちがハバネロ排除を支持する最大の理由は恐怖だ。
ハバネロは強過ぎた。
そして軍閥派を結果的にではあるが排除している。
軍閥貴族の家からは恨まれ、残った他の貴族も自分も排除されるのではないかととても強い警戒心を抱いている。
恐怖も憎悪も根源に関わる非常に強い感情である。
これで婚約破棄までまっしぐらにならない訳がありません、つまり詰んでます。
後は貴族が沢山集まる舞踏会(タイミング)を待つばかり。
そんな時、民衆に人気のお友達のメラクル令嬢は、悪役令嬢ツンデレラを庇おうとします。
ところが、他の令嬢が言うのです。
「メラクルちゃん、あんな人と友達なの?
まあ! 品性を疑っちゃうわ!
所詮、庶民と仲の良い野良猫ね」
こうして社交界に悪い噂が流れて、メラクルちゃんの結婚は絶望的となります。
ちゃんちゃん。
このくだり必要だった?
ねえ? ハバネロ、なんとか言ったら?
そのままでは民衆に人気であろうと、少しぐらい社交界で人気が出ようと、ツンデレラに巻き込まれればひとたまりもありません。
そのため社交界で地位のあるハーグナー侯爵に後見を頼んだのです。
もちろん、ハーグナー侯爵もツンデレラを庇ったりしません。
メリットもないですし、ましてや王子に睨まれては侯爵家も巻き添えを食ってしまうからです。
戦後処理で皆がバタバタしていると、不測の事態が起きるとも限らないので、王はタイミングを図っている、のだと。
それがハバネロの残されたタイムリミット。
「こうして悪役令嬢ツンデレラはその悪役の名の通り、婚約破棄をされるのでした、とね。
ま、気にすんな。
ツンデレラは最初から詰んでることぐらい気付いてた訳だからな。
世界もユリーナも……お前も。
そこまで救おうとして、自分までってのは流石に贅沢ってもんだろ?」
あっけらかんと何でもないように言いのけて、もう休め、と私たちはハバネロにテントから追い出される。
物事は私たちにどうしようもない、ずっと上の方で決まっている、そう言われた気がした。
それが公爵という立場。
話を聞いて、余計に無力感を感じた。
道の先は真っ暗で光が見えない。
ハバネロに死んで欲しくない、ただそれだけなのに。
「うー……」
私は不満のあまりハバネロのテントを爪でカリカリカリカリカリカリ……。
「こぅらぁああ! この駄ネコが!
何してやがる!!」
……怒られた。
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