追憶

 交差する直前、この世界で過ごした3日くらいの走馬灯が見えた。


 そんでもってちょっと冷静になって、あれこれヤバない?


 テンション振り切って突撃したけど、俺近接出来んし。この周りを飛ぶ細い羽根じゃダメージは与えられなそう。


 でもまだ誰もこいつを切り付けたことは無いし、接近したことも無い。だからワンチャン……




 と、考え首を振る。


 ワンチャンじゃダメだ。


 だから羽を飛ばしたまま、僕は旋回。




 するも……


 ちょっと近すぎた。高速でこっちに向かって飛んでくる鴉を避けきることができず……




 思わず目を瞑り衝撃に耐えようとする。


 が、いつまでたっても痛みが来ない。




 恐る恐る目を開けた先には、透明な膜が広がり、僕と鴉を隔てていた。


 一瞬身構えるが、悪意は全く感じずそれどころかどこか暖かいような。


 そこまで感じて理解する。こんな味方に有利になる特殊現象は恐らく誰かのオリジナルだろう。




 よくよく見てみると、膜には地面に向かって糸が伸びていて……




 その先は僕の大切なパーティメンバーが構える杖から出ていた。


 あぁ、戦闘中なのに涙が出てくる。こんなに守ろうと思ってくれている人が居るのに、勝手に空に飛び出して、そんでもって死にそうになって。




 1回降りよう。体勢を立て直そう。これはレイドなんだ。




 僕は牽制用に羽根を飛ばしながら城壁外へと再び舞い降りる。


 ホノカや、ケーマさんが居る櫓から数100mだろうか? 周りにはまぁまぁな数のプレイヤーが居て、僕を睨んでる?




「お前ずっと飛んでるな! 1人で襲いかかったりするし…… チートか??」


「いや、スキルなので違いますけど……」


「俺らの取り分が減るだろ! 十分活躍したお前は引っ込んでろ!」




 彼らの言うことには500理くらいある。結局つっかえてるのは僕の感情だけで、独善的な行動だったかもしれない。




「確かに…… そう、ですね。」




 前世でもこういう事はあった。




 僕らパーティが住む街へ襲来したレイド級の魔物マウントボア。


 その場で1番ランクが高かった僕らは、それぞれの職の指揮を取っていた。


 でも多少の犠牲は出てしまうから。


 眷属のウリ坊を1匹逃がしてしまって、街に侵入させてしまった。それは直ぐに僕が仕留めたんだけど……


 1人、後方で補給をしてくれていた人を助けられなかった。ビギナーの頃からずっと優しくしてくれていた宿屋の店主さんを。




 それに対してなんか色々感情が爆発しちゃって、1人で倒しちゃったんだ。


 街は守れた。だけど冒険者は活躍の機会を奪われて、ちょっと怒っちゃって。




 あぁ、今回も一緒だ。僕は未だにあの頃のまま。周囲を顧みれなかった。




 だからここでは一旦引こう。街を守ることだけを考えよう。




 そう考えて城壁へと歩き出す。僕の出番はもっと後でいい。




 だけど、そうは思わないヤツが1匹。




 カァァァァァァッ!!!




 大音量と共に、地面がブワッと黒くなる。




 あー、やっべぇっすわこれは……




 どうしよ? どうすれば生き残れるか……


 僕の防護力は鳥だけに毛が生えた程度。ほとんど使ってないから、レベルアップ時のステータス上昇は微々たるもの。ハウエバー装備は軽装だ。




「縛れ!」




 選ばれたのはチョーカーでした。


 自分の体をぐーるぐる。あー、これはモミジに変態って言われてもしょうがないな…… 圧迫感が…… そのまま完全に体を覆って、気分はミイラ。素敵な鎧の出来上がりー!




 これで的の氷礫は効かない。




 一安心、と思っていると……




 妙な浮遊感を感じた。


 自分で飛ぶのとは違っていて、なんだかブランコに乗ったような……


 鎖の隙間から外を見る。するとおかしな事に城壁の上の遠距離職諸君が見えてしまう。


 あっ、撃ってきた。


 目の前を何本もの矢が掠め、鎖に弾かれたり上の鴉様に弾かれたりして目の前を再び落下していく。


 うん、やっぱこれ持ち上げられてますねー……




 持ち上げた奴がすることは1つ。そう、落とすことです。




 飛べる様になってから、同じくらい落ちている気がする私です。




「解除!」




 地面すっれすれで鎖を解除し、低空飛行で離脱を試みるものの……


 追撃。左半身に爪が掠って傷ができ、地面に無様に転がってしまう。




 周りの近接職が、好機とばかりに氷獄鴉に切り掛るが、すべて弾き飛ばされて殆どがポリゴンになってしまった。




 僕は動けず、周囲に鴉が獲物僕狩りやすいフィールドを作るのをただただ見ていることしかできない。




 そうして直径50メートルの、かつてダレカだった装備のみが転がる円の中で無様に地面を這う僕と、空からこちらを見下ろす鳥が相対する。




 今度こそ終わっちゃったな。圧倒的な絶望に何も感じられなくなる。逆転の目は加勢だけ。でもそれも、相手が張った円形の闘技場に防がれる。




 敵はゆっくりと降下し、絶望を増幅させる様にゆっくりと体中の氷を一点に集める。




 対城壁用の攻撃で死ねるなんて、随分と買われたものだ。




 そして動けないままチャージが終わり、僕の2度目の人生が……




「終わらせねぇよ!! 【ギルティスティール】!」


「終わらせないわよ!! 【必殺:刹那】『人力桜吹雪』!!!」




 氷が盾へと向きを変える。


 目に見えぬ程の速度の剣戟が敵の赤い血で華を舞わせる。




「あぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」




――――――無くした物が、そこにあった。

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