前哨戦

「いやー、改めて見てもおっきいなぁ!」




 ケーマさんとホノカを向こうにやった後、眼前で鎖に巻かれている烏を見てそう1人ごちる。




 ホノカと離れることや、向こうが本当に5人で大丈夫なのかは心配だけど……


 僕にできることは信じ、そして目の前のこいつをとっととぶっ倒して合流するしかない。




 鎖に罅が入る。




 これまでモンスターに使ったことはなかったから知らなかったけど、やはり抵抗が重なると解除されてしまうようだ。




 走って烏から多少の距離を開ける間に罅は全体に及び、ついに光の粒子となって消え去ってしまう。




 カァァァァァァァ!!




「ちっ、っぶな……」




 拘束から解放されると同時に、大量の氷の礫が飛んで来る。




 それは【飛行】で回避できたんだけど、空中戦じゃ僕は不利だ。


 まだ僕は"飛べるだけ"。不安定な姿勢で矢を放つことはできないから……




「ぐぅ……」




 同時に飛び上がった敵の鉤爪に軽く引っ掻かれ、胸元からポリゴンが上がってしまった。




 即座に距離を取って着地するも、追撃はまだ続く。




 それを避けて避けて、たまにカスって……




「いやぁ、キツ楽しいなぁ……」




 弓師の本領は遠距離攻撃だ。この世界に来てからは、大体が格下との戦いだった。




 でもこうやって同格の相手に攻め込まれると、ちょっと反撃が難しい。




 が、それも普通ならだ。




 サーラッド家は弓を本業とし、その弓によって国を守ることによって爵位を得た家である。


 軍人貴族も軍人貴族が『距離詰められたから死んじゃいましたー! わー!』じゃ格好がつかない。


 その点前世の僕はギリ…… どうだろ。悪魔控除は効くかな?




 まぁ兎に角反撃の切り口として、腰に差した短剣を振ろうとして……




 気付く。




「あ、ホノカからのバフかかってるやん…… もったいな。」




 次の一撃は、【神母の加護】が乗った【ストレングス】で威力が超上昇している。




 それを短剣での通常攻撃に使ってもいいものだろうか?




 ふと一瞬、そんな考えによって動きが止まってしまった。




 カァァァァァッァァ!




 だが悩んでいるうちにも攻撃は続く。ここは腹を決めねば。




 相手が手の届く範囲に入ってきたことを確認して……




「えぇい…… ままよ! 【火矢】【サーラッド流短剣術:弓切り】!」




 呼び出した炎の矢を弧を描く用に滑らせ相手に燃える傷を作る我が家の我流短剣術を放つ。


 スキルの補正は掛かっていないけど、ホノカによるバフと【魔法短剣術】とでも言うべき技術が合わさることによって……




「ギャァァァ!」




 足に大きな傷を創る。


 痛みによって相手の空中姿勢が崩れる。




 その隙を突いて僕は【バックステップ】で相手から距離を取りつつ、




「【雷矢】【四矢】」




 手元に即撃重視の雷の矢を呼び出し、弦を引


 き、素早く放った。




 今は威力は求めていない。欲しいのは……




「きたっ!」




 4本の黄色い矢が烏の胴体に次々突き刺さると共に、稲妻のエフェクトが敵の身体に迸っていく。




 《スタン》だ。


 一定時間敵の動きを止めるこの状態異常によって、僕は更に距離を取ることができて……




「【強矢】【炎矢】【二矢】【三矢】【四矢】【エンチャント黒金:兎】チェックメイト!」




 バフがもりもりの一撃を放つために弦を目一杯引き絞り……




 バチィィィン!




「ぐっ…… くっ……」




 ヤバい!




 "暴発"した!




「ぐぅ……」




 手が焼け爛れる。


 何らかの原因によって魔法がファンブルし、自らに牙を向くことを暴発とウチでは呼んでいた。


 ごく稀に起こることで、お爺様や父上の手はボロボロになってたんだけど……


 僕は2回の人生の中で4回目の経験になる。




「ここまで一緒なのかよ…… ハハッ、でもこっから勝てば…… ぜってえ楽しい!」




 スタンは切れた。


 こちらに飛び寄ってくる相手の翼を氷が覆い、さながら大きな出刃包丁のようになる。


 それをアイツは振りかざし―――――




 僕はインベントリから取り出したぴちょ丸の角を使った《鋭角金牙》を弓につがえ口で引き絞り――――――




「むがぁぁぁぁ!!」


「カァァァァァァ!!」




 氷刃が胸を切り裂く寸前【バックステップ】で後方に回避。かすった刃は胸当てに全て吸い込まれて……




「むがむがっっっ!!」




 至近距離まで迫った無機質な瞳に向かい、《鋭角金牙》を噛んでいた口をそっと開いて……




「てぇっく……メイト」




 《鋭角金牙》


 黒金兎の角の先端を矢尻に用いた、世にも珍しい矢。その捻れと溢れ出る魔力は刺されたものを内側から破壊するだろう。






 目の前でポリゴンが爆発する。




 脳はクリティカルだ。




 そんなところを破壊されれば、言わずもがな。




 ポリゴンの中心地には一本の矢と数種類のアイテムが落ちており、そこに一瞬前まで烏が居たことが嘘のようだった。




『レベルがアップしました! 称号《ジャイア…………』




 ファンファーレと共にレベルアップと称号、スキルの入手を知らせるアナウンスが響く。


しかし僕はそれすらよく聞かずに即座にアイテムを回収し、みんなの元へと向かう。




「ホノカ、みんな…… 耐えててくれよ!」




 願いながら、片腕を引きずり僕は走った。

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