木の下 鳥犬兎
黄色の本を開く。
「Life in.」
『お帰りなさい、もうひとつの人生へ』
定められたコードが口から発せられれば、光が満ちて世界が繋がる。
って、目が…… 目がぁぁぁぁ!
ちょと今回光強くない? え、気のせい?
ギュッと瞑った目が景色を捉える前に、鼻から爽やかな香りが、腕には羽の重みが加わり別世界に来たことを感じさせてくれる。
ただいま。
目を開けば草原は青々と光り、大樹は堂々と聳え立っている。
いつもの…… と言っても三回目のログイン広場に僕はやって来ていた。
「ライト! お願いワン! アイツどうにかしてくれワン! 」
そして、ここはと言えばな声が。
ちょっと目線を下に落とせば、燕尾服を着た犬が流暢に喋っていた。
「おはよう、ダッキー」
「おう、おはようだワン! って挨拶はいいワン! アイツ、どうにかして欲しいワン! 折角綺麗な芝が汚くなっちゃうワン! 」
朝の挨拶も半端に、ダッキーから大声で身に覚えの無いクレームが。
「アイツってなに? 全く覚え無いんだけど…… 」
「アイツだワン! あんのくそ兎め…… 」
そう言って恨みがましくダッキーが指差し…… 指? 肉球…… 差した方向を見ると、どこか見覚えのあるメタリックうさぴょんが。
「ぷぅぅぅ!」
……え? え? いやなんで?
「いっ、いや、なんでここにアイツがいるのっ!」
「こっちの台詞だぴょん! 初日に倒されていいモンスターじゃないぴょん!」
ダッキーは何故か語尾が変わるほどお怒りだ。
「え、なになに? 倒されていいとか? 倒したのがトリガーだったの?」
ふとダッキーの言ったことが引っ掛かり、質問してしまう。
「よく聞いてくれたワン! 」
あ、語尾戻った。
「ライト、昨日倒したアイツの名前わかるかワン? 」
「えーっと、黒金プラチナ」角兎だったっけ? 」
突進をかわすのが、中々に楽しい闘いふれあいだったよなぁ……
幕切れはちょっと残念だったけど。
「じゃあライト、本来あそこにいるべきだったモンスターはわかるかワン? 」
「んー…… あぁ、金角兎だっけ? 」
本来のお使いの相手だもんなぁ。上位素材でも許してもらえて本当によかった。
「そうだワン! で、こっからが大事ワン! 」
なにやら大事な話が始まるらしい。
長くなるかなぁ……? 早くログインしたいんだけども。、
うーん、まぁでも兎のことは気になるからいっか。
勝手に自己完結しながら、傾聴の姿勢を取る。
「昨日ライトが倒したモンスターは、通常のボス…… 《金色兎》が、ある一定の周期にヤーンキャタピラを食べて変化する《白金兎》が、一定確率で戦闘中に進化する《黒金兎》だワン。」
「ややこしいね。」
「うっさいワン! 開発者に言えワン! ……まぁ兎に角、そんなレアで強いボスを最初に倒したプレイヤーにはなにかご褒美を上げよう、という事で実装されたシステムそれが……」
「この兎ぴょんってわけね。」
成る程成る程。スキルも獲得できたし、貰いすぎな気もするけど…… でもとてもありがたい。癒しは大事。
「あー、台詞取るなワン! まぁ、そんな所ワン。あくまで愛玩用だから、週一で素材が取れる以外の益はないワン。」
えっ? ボス素材を一週間に一度取れるって、めっちゃ良いよね?
最初のステージのボスではあるけれど、強化マシマシだからこの後も長く使っていけるだろうし。
「ぷぅぅぅ、ぷぅぅぅぅ! 」
ほら、コイツも有益だよーってぷぅぷぅ言ってる。
昨日は殺し合ってたけど、やっぱデカ兎は正義だ。
「んでんで! 遊んでないで困ってること聞いてワン!」
ダッキーがデカ兎…… 君は今日からぴちょ丸だ! と触れ合っている僕にクレームを付けてくる。
「んー、なんだよダッキー…… もふもふ…… 」
「ぷぅぷぅ…… 」
「そいつが! 僕の芝を荒らすワン! 」
「あー…… 成る程ねぇ……」
ぴちょ丸、芝食い問題か……
「お前、どうにかならないのー? うりゃうりゃー」
毛をワシャワシャさせながら、ぴちょ丸の顔を覗き込む。
てかコイツ雑食だったよね? 芋虫食ってたし。
「うーん…… ここインベントリも使えないし…… って、あっ! ダッキーが【召還サモン】で芋虫呼んで上げればいいじゃん! 雑食なんだから、草以外の食糧を提供して上げれば大丈夫だと思うけど……」
「あー、成る程だワン! 確かに確かに……【召還】【召還】! これでどうわん? いっぱい食えワン! 」
おっ、いい案だった様だ。魔方陣が描かれ、芋虫が次々と召還される。
うっへぇ…… 気持ち悪いな。
「お前の餌は今日からこれだワン! 次芝食ったらぶっ殺してやるワン! 」
物騒だなぁ……
そんな事を思いつつ、この後僕は少しぴちょ丸と遊んでから、【転送】で再び街へと降り立つのだった。
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