長い一日の終わり
「ふーん、そんな経緯でこの素材が集まったっていう訳ね…… 」
黒金兎との戦闘の後、他の頼まれた素材も回収しエルフ姉さんの工房に僕は戻ってきていた。
なかなかに時間がかかり現在リアルでは夜12時。
明日は休日だと言っても、そろそろ寝ておかないと明日のレイドに響くかもしれない時刻だ。
まぁここはリアルの三倍早く時間が流れているから、後二時間くらいは大丈夫だろうけど。
そんなことを思いながら、ホノカとエルフ姉さんに向かって採集のことについて語る。
どうやら作業用のラジオの代わりにするとのことで武勇伝(?)を話せと頼まれたのだ。
「っていうか大変だったんですよ…… ヤーンキャタピラがいないと思っていたら、まさか黒金兎に補食されてるなんて…… 」
そうなのだ。いま考えてもほんとあの兎は許せない。
あの草原では全く見つけることができなかったヤーンキャタピラが黒金兎のドロップ品である宝箱アイテム《兎の胃袋》から出てきたときは腰を抜かした。
「アイテムを手に入れるために胃袋開封が必須とか、随分攻めてるよねぇ…… 」
ホノカにも同情されてしまうくらいだ。
確かに兎は普通草食動物だ。黒金兎も途中なんか闇落ち人参食べてたし。
でも、アイツは雑食だった。それはもう。
なんか臭気を放つ物体を開き、中から出てきた芋虫を倒しドロップ品に変える。地獄かな?
「エルフ姉さん、次からはどこに素材があるかの詳しいことも教えて下さい…… 覚悟があるか無いかは重要なので……」
「分かったわ。っていうか嬉しいわねぇ。もう次のことを考えてくれてるなんて」
自然と口をついて出てきてしまったけれど、次からはホノカに完全に装備を任せるつもりだったからなぁ。
ミスった。
「あっ、ちょっ、でも…… 次から作成は多分ホノカにお願いするので、お姉さんには納品だけになりますよ。それでも良いんだったら対価さえ貰えれば…… 」
「ふふ、冗談よ。貴方がホノカに頼むことは既に知ってたし、それにね…… このお店は、使う素材の一部を自力で採ってきて貰うことによって強すぎる武器に振り回される人が出なくしてるの。だから素材には困って無いのよね。」
成る程。強すぎる武器は身を滅ぼすと言うし、自分が用意できる素材で装備を作るのはとても利に叶っている。
こんな風に先に作業を終えていたお姉さんと軽く雑談していると、ホノカの作業も一段落したみたいだ。
「終わった終わった! んーとスキルは…… よし、【木工】生えてる! ライト、お姉さんやったよ!」
「おめでとうホノカ! 」
「やっぱり中々筋が良いわね。道具の使い方から一つ一つ教えたのに、もう作品を完成させるなんて偉いわ! 」
「それで、何を作ったの?」
「それはね…… じゃじゃーん! スプーンです!」
彼女の手に持たれていたのは、2つの木製スプーンだった。
「あのね、最初に作ったやつはやっぱりライトに上げたくって、でも自分でも持っておきたくってね…… それでペアのスプーン! これでまた一緒にプリン食べようね!」
そう言って彼女は片方を渡してくれた。
なんだろう、胸がほっこりする。
「うわぁ…… 本当に嬉しいよ! ありがとう!」
「やった! 喜んでくれると、作った甲斐があったよ」
それから、僕は彼女からのプレゼントをそっとインベトリに入れた。これは大事に使っていこう。
「いいわねぇ、青春してて。」
その声で、ふと横を見ると恐ろしい程の圧が。
なんだなんだ? と思えば、エルフ姉さんがジト目で此方を見てきていた。
その視線で僕らは冷静になり、ハッ…… と自然と近くなっていたの距離を離す。
そしてお互い赤くなった顔をちょと反らした。
「まぁ、いいわ。今日は早起きし過ぎたから、明日のこの時間私はライトの装備に取りかかるわ。ホノカ、来れるなら来なさい。」
「はい、分かりました! 」
「ライト、納品は明後日のこの時間になると思うわ。その時間に取りに来て。レイドでの活躍、期待してるわ。」
ホノカは明日朝8時に、僕は午後4時にもう一度ここへやってくることに決まった。
「それじゃあ、私もう寝るから今日は解散ね。ホノカ、また明日ー」
そう言ってお姉さんは奥へひっこんで行ってしまった。
こ、行動が早い……
「ホノカ、本当、プレゼントありがとう」
「いや、こっちこそ今日1日有り難うね。人生の中でトップ5に入るくらい濃密な1日だったよ……」
「そうだよね。はははっ! 」
ログインから始まり、ゴブリンを倒し、氷獄鴉に殺されかけ、進化して、レベリングして、ボスと戦って。
「おやすみホノカ。また…… 明日」
「おやすみライト。また明日、一緒に遊ぼうね!」
ライトは帰還した。この闘争溢れる世界に。歯車は回りだし、魂が集う。
長い、長い1日が終わる。
一時の別れに際した少年と少女は光の粒となり…… 手を振りこの世界から姿を消した。
第一章 サービス初日 完
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