第66話 勘違いだったらしい
「優里さん?」
部活でいいように使われてクタクタになってマンションへ帰ってきたのだが、先に帰ってきているはずの優里さんが部屋にいる気配はなかった。
それに声をかけてみても返事がない。
靴は玄関にあるから帰ってはいるのだろう。とりあえず部屋へと入りリビングの電気を付けてみた。
「優里さ~ん」
やはり返事はない。もしかすると部屋で寝ているのかも知れない。最近生徒会だなんだと忙しそうだったからな。朝も俺より早い日が続いているし。
「寝ているんですか?」
ソッと部屋を覗いてみると、勉強机に突っ伏している優里さんが見える。勉強でもしていたのだろうか?しかしそんなところで寝てしまうと体を痛めかねない。
起こそうか?そんなことを考えながら優里さんの隣に立ってみる。
肩を触って起こそうとしたとき、突如として優里さんが体を起こした。
「うぉ!?」
「・・・信春君」
俺の驚きなどお構いなしで、ただ名前を呼ばれる。しかしその声にいつもの穏やかさは微塵も感じられなかった。
「な、なんでしょうか?」
「信春君は年下の女の子が好きなんですか?」
言葉がやけに力強くて気圧されてしまう。しかしいきなりどういう質問なんだろうか?
年下の女の子?別に年下が特段好きというわけではない。
「違いますけど」
「本当ですか?同学年では恋愛対象に見れないなんて事はありませんか?」
「・・・何かありましたか?」
あまりにもおかしなことを言い出した優里さん。本当におかしくなったのではないかと不安になる。
たしかに突拍子もないことを言う彼女ではあるが、この手の話を深掘りしてくることは基本的になかったはずだ。
しかし今はとても根掘り葉掘り聞かれていた。何かあったとしか思えない。
「先に私の質問に答えてください!」
あまりの迫力に、流れるままに頷いてしまった。いや“しまった”なんて言ってはいるが、同学年でも年下でも年上でも好きになれば年齢は関係ないと思っている。だからこれはこれで正解だろう。
「ありませんよ。好きなった人が年上だから嫌いになるとか、同い年だから冷めるとかそういうのはありませんから」
「そ、そうなのですね・・・」
優里さんの勢いは急速に衰えていった。今ならば聞けるかも知れない。
「何か怒らせるようなことをしましたか?」
「別に私は怒っていたわけではありませんよ!ただ少し不安になっていただけです」
後半の方がよく聞こえなかったが、どうやら怒っていたわけではないらしい。そうなれば尚更先ほどまでの態度が気になってくる。
何故あそこまで俺が怖い目を見たのか・・・。
「今日、助っ人だと言っていましたよね?」
「はい。同じクラスの田谷に頼まれて野球部の方に」
「休憩中にマネージャーらしき女の子と仲良くしていたのが・・・・・・・・・」
またしても後半の方がよく聞き取れなかったが、おそらくマネージャーというのは赤井さんのことだと思う。野球部のマネージャーは1人しかいないから。
しかし休憩中に赤井さんと俺はそもそも話などしていない。話していたのは、何故か懐かれてしまった1年の藤原義経だけだったはずだ。
「何か勘違いがあるみたいですけど、俺、赤井さんとは話していませんよ?1年生とずっと話していましたし」
「・・・?」
一瞬固まって、そして首をかしげる。その仕草が最早可愛いのだが今は誤解を解くことが最優先だ。
そのために当時の状況をよく思い出してみた。
休憩時間になり、俺はベンチの最前列の椅子に腰を下ろした。すると隣に藤原がやって来たのだ。何やら気に入られてしまったらしく色々聞いてくるのだが、ほぼ野球初心者の俺に教えることなんて何もない、と言うと全く別の話題になった。
共通の趣味があり思わず盛り上がっていたが、後ろから楽しそうな会話が聞こえてきて、途中からは腹立たしさで藤原との会話が全部通り抜けていく有様だ。
・・・俺の右隣に藤原が座っていた。
俺の真後ろ辺りに田谷くんが座っていて、その左隣にマネージャーである赤井さんが座っていた。
どこから優里さんが見ていたのかは知らないが、遠くから見れば俺と赤井さんが仲睦まじく話していたように見えたのではないだろうか?
しかしそんな漫画のような勘違い、あるだろうか?今考えた推理をそのまま話してみた。
「・・・私の勘違いですか?」
「そもそも赤井さんは田谷と付き合っていますから、俺とくっついて話すなんて、ましてやすぐ近くに彼氏がいるのに」
「・・・ありえませんよね」
また机に突っ伏してしまった優里さんだが、わずかに耳が赤くなっているのだわかった。
どうやら勘違いだったということで話を決着させてもいいらしい。
誤解を解けて良かった。俺だって優里さん以外とそんな仲になるつもりはないしな。
しかしそうなってくるといよいよアレが問題となってくる。例の難問過ぎる宿題だ。
さてどうしたものか・・・。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます