第71話 鍛錬―ソージ・オキ(1)
イラついてもいたので、普通にソージ君を嬲ろうとした。場所はまたイッサさんの武道場だ。イッサさんは、昨日ゆっくりとはいえ半日走りっぱなしだったので、筋肉痛で倒れている。元がブタゴリラだったので、一日でも成果は出たようで、頬がちょっとだけすっきりしていた。太腿は確認したくないのでしていない。
ソージ君については、そう簡単にはいかなかった。
ソージ君と戦うのは、楽しかった。
彼は小さな剣を使っていたのだが、素早い剣で避けるのも受け流すのもギリギリだった。
非力だというのとは関係なく、余分な力が入っていない。一度止めたら何故止められたのかをすぐに考え、修正してくる。
最初はいつ剣をどう打ってくるのか、イッサさんと同じように丸わかりだったが、数度打ち込めば剣の起こりを消してきた。いつ打ってくるかわかりにくく、上段かと思えば脇腹、脇腹かと思えば喉を突いてくる。これだけでも、思考加速が無ければ危なかったかもしれない。
技術的には勝手に成長してくれるので、弱点の自覚をしてもらおうと、剣を弾き飛ばしてから打ち込んだ。
二度やれば、恨みがましいような眼で僕を睨む。その後が面白かった。
右から来るソージ君の剣を読み、弾き飛ばそうとするところで握力以外脱力し、僕が弾き飛ばした力のままにその場で独楽のように一周回って僕の左脇に振って来た。
小太刀だったから、ギリギリで避けれた。違う武器なら当たっただろうが、それを扱う筋力がない。
バックステップして服に掠る程度で避けた僕を、こけた頬のソージ君がギョッとしたような目で見る。驚きと体勢の悪さで追撃は出来ないようだった。僕も避けはしたが、当たらなかったのが不思議なレベルだったので、同じ理由で反撃は打てなかった。
互いに体勢を整え間合いを取って、少し見合う。プランが決まったような表情で、ソージ君が一歩踏み込む。細い金の髪が揺れる。
頭、右脇腹、首、右脇腹。いずれも本気で打ってきてはいない。やる気がなくなったわけではなく、待っていた。
次は何をするつもりか楽しみだったし、同じ手段を取って来るなら、今度はカウンターを返せる自信はあった。だから、意図に応えて右脇腹へ振って来た小太刀を弾き飛ばした。
さっきと似て、非なる感触。さっきは易々と弾き飛ばすような感覚だったが、今回は正真正銘易々と弾き飛ばした。
握ってすらいない。握る手すらなかった。目の前に狐亜人の少年すらおらず、僕の鳩尾みぞおちに突進しようとする狐がいた。獣化。
また、身体が勝手に動いた。
ソージ君の小太刀を弾き飛ばした右手の剣の握りを放したかと思えば、拳を作った。腰が少し落ちて足がハの字を作り、右肘が直角を作ったまま腕ごと鳩尾のところへ。落ちた腰が左へ回り、左拳は左の脇腹へ。
スキル《中段受け》を獲得した!
狐に獣化したソージ君の鼻を、腕で逸らす。SPDによる勢いはあれど、横には逸れる。その一瞬、狐は空中で静止する。
そのまま引いた左拳が勝手に肘から弧を描いて上がっていき、頭上から
「ぐ! うぅ」
「ふぅ。ちょっとスッキリ」
苛立ちがおさまった以外にも、良いことがあった。失神してくれたので、意識が無いのをいいことに鑑定が出来たんだ。
《ソージ・オキ 亜人族(金狐) ♂》
【ステータス】
LV 4
HP 31/61
MP 23/23
POW 26
DEF 32
SPD 121
MAG 52
INT 81
LUC 92
【職業】
■■の護り手
【状態】
情緒不安定
【スキル】
《獣度調整》
《瞬発LV2》
《突進LV1》
《蹴るLV2》
《引っ掻くLV2》
《噛みつくLV4》
《刺すLV1》
《隠密LV3》
《思考加速LV2》
《疾駆LV4》
【パッシブSKILL】
《集中LV2》
《命中LV2》
《回避LV3》
《南の森の知恵LV1》
《守護者》
【成長スキル】
《見取稽古LV1》
《天才(武)》
職業。やっぱり人間にはあるのか。読めないが。村の護り手? 勇者の護り手? まぁわからないものは、放置しておくしかない。
そしてやっぱHPやATKは少ないし、SPDは高すぎる。
HPの残りも半分になっているので、今日はここまでにしておいた方がいいだろう。
スキルも面白そうだ。特に成長スキル、やっぱり天才じゃったか。見取稽古も、文字通りなら面白そうだ。確かにこの才能なら、人の稽古を見ているだけで自分のものにしそうである。
ヒジカのお母さんに頼んでいっぱい食わせながら、僕、ヒジカ、イッサさんと組手をするだけでも勝手に成長しそうだ。イッサさんと一緒で、まずは体をつくることかな。イッサさんの体つくりは走り込み中心になるので、しばらくは組手のローテには入れなくてもいいだろう。
とりあえず、明日はイッサさんの本番だ。
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